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133-巻頭言「再び太平洋島サミットの年」

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巻頭言

再び太平洋島サミットの年

小 林 泉(こばやし いずみ)


 今年の5月22・23日の二日間、太平洋島サミットが開催される。1997年の第1回から三年ごとに5回目を迎える今年の開催地は、北海道は占冠(しむかっぷ)村トマムだという。「占冠」なんて、普通の人は読めないだろうし、「トマム」には漢字もない。北海道にはアイヌ語起源の地名が随所にあって、原語音に漢字をあてはめたものが多いから、初めての出会いでは読めないのもしかたないだろう。それはいい。だが、島サミットの開催地が「トマム」と聞かされて、大半の日本人がどのあたりなのかのイメージも湧かないのだとしたら、これはまずいのではないか。それでなくとも、類似の国際会議であるアフリカ開発会議(TICAD)などと比べて、国民の認知度が低いのだから。
 第1回の島サミットは東京で開催された。その次は宮崎に移り、3回、4回が続けて沖縄。私は、重要な国際会議を東京ばかりではなく、地方で開催すべきだと考えていた。交通アクセスの便や安全警備の観点からすれば、中央でやるのが都合良いことは自明だが、地方開催にすれば地元民やメディアの注目度も高くなるし、外国からの参加者たちには「日本中が自分たちの来日で盛り上がっている」との美しい誤解を創り出すことだってできる。こうした演出も外交イベントには重要なのである。日本が先進国サミットでようやくこの考えを取り入れたのは、日本開催4巡目となる2000年の九州沖縄サミットからであった。それまでの開催地はいずれも東京(79、86、93)だったが、G8の中で3回も同じ場所で開催したのはイギリスだけ。さすがにそのイギリスも4度目の98年には、ロンドンではなくバーミンガムに場所を移したので、日本も東京以外でやらざるをえなかったのかもしれない。
 沖縄でのサミット開催を強力に推し進めたのは、時の小渕恵三総理である。これが決まると、その直前に開催される予定だった第2回島サミットの宮崎開催も連動して決まった。先進国中でも最も治安が安定していて安全な交通網があると誇っている日本が、警備や交通上の困難さを理由に地方での国際会議開催ができないというのはおかしい。やっぱり「前例のないことをやるのは、強力な政治力が必要なのだ」と私は思った。
 ともあれ、その年の二つのサミットは大成功。続いて沖縄で実施された3、4回の島サミットも地方開催のメリットを充分に発揮して好評だった。それも、地方開催に前例ができて、事がスムースに進行した結果だったと言っていい。特に沖縄は、日本の最南端の島嶼県として気候・風土や島文化に至るまで、太平洋島嶼地域との類似点が多いから、南の島々の首脳が集う場所として様々な大義名分を作りやすい条件を備えていた。実際に、島嶼ゆえの産業開発の成功と失敗、人の流出・流入、離島間コミュニケーション、エネルギーとゴミ処理等々、沖縄が経験してきた島嶼ならではの社会問題は、PIF諸国にも当てはまる共通のものが多かった。だから沖縄は、地域の連帯や意識の共有をアピールするには、もってこいの場所だったのである。
 では、トマムには島サミット開催地として、どんな意味づけがされるのだろうか。熱帯地域の島々と広々とした寒冷地との対比が、何か面白い名分を作り出せるのかもしれないとも思ったが、三カ月前の今になっても会議主催関係者からは何も聞こえてこない。おそらくここが、島サミット開催適地として考え抜かれた、あるいは戦略的思惑を含んだ場所ではなかったからだろう。
 トマムはスキー・リゾート地で大きなホテルはあるけれど、もともと居住する住民が希薄だから、地元民による盛り上がりは期待できない。周辺から人を集めるにしても、時間がかかる。「ここには、牛と馬しかいない」と誰かの聞きかじりで私が言ったら、「5月のスキー場なんて、牛もいないよ」と返されてしまった。いかなる理由と経緯で、この地が選定されたのか私には不明だが、地の利を充分に生かし切れないのならば国際会議の地方開催に意味はない。せっかく多大な労力と予算を消費して行うのに、これではまずい。島サミットは、日本のイニシアティブで進める国際首脳会議として、島嶼諸国側からも高い評価を受けている外交イベントだけに、5回目の慣れから島サミットへの熱意が薄らいだと思われることだけは避けねばならないのだ。
 ならば日本の関係者らは今から、会議の内容を充実させるべく準備に専心しなければならないだろう。ではその充実とはなにか? それは、日本が島嶼諸国との一体化、連帯化をどのような形で展望するか、国家ビジョンとして示すことである。島嶼国の首脳はいずれも、旧宗主国とは異なる対先進国関係を築きたいと日本に期待している。島サミットは島嶼諸国への援助分配会議のようになってはならない、と私が考える理由はここにある。島嶼国と共に築きあげるテーマを議論してこそ、信頼の絆が太くなると思うからである。
(小林 泉)

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