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139-巻頭言「高まる島嶼地域への国際的関心」

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巻頭言

「高まる島嶼地域への国際的関心」

小林 泉 (こばやし いずみ)


 来たる5月、6回目の太平洋・島サミットが沖縄で開催される。今回の島サミットは、これまでになく重要な会議になると関係者はもちろん、私もそう考えている。だが、日本国内での関心度は残念ながら今ひとつ。もともと島嶼地域についての関心はそれほど高くない上に、長引く経済不況や東北大震災の後遺症が続いているせいで、島嶼国のことなど考えている余裕がないのだろう。
 とは言っても、日本人が内向き傾向になっている原因を挙げて、納得してばかりはいられない。このところの国際情勢は大きな変化の波に晒されているし、太平洋島嶼地域に関しても、新しい動きの中で諸外国の注目度が一気に高まっているからだ。それは、昨年9月にニュージーランドのオークランドで開催された太平洋諸島フォーラム(PIF)年次総会の盛況さを知ると実感できる。
 PIF年次総会は年一回、16加盟国・地域の首脳が集まる会議だが、その後に「域外国対話」と称して、非メンバー国の次官級を招いた意見交換の場を設定してきた。例年の対話国は、日本、中国、韓国、インドなど10ヵ国に満たなかった。ところが昨年は14ヵ国の代表に加え、潘基文国連事務総長や英連邦事務総長、EC委員長らも参加した。さらに注目すべきは、ナイズ米国務副長官とキャンベル米国務次官補が50人ものスタッフを引き連れて乗り込んできたことだ。米国も国連事務総長も、もちろんPIFには初参加だった。毎年代表を送っている日本からも山口壮外務副大臣が参加したが、居並ぶ大物たちに混じっていささか影が薄くなってしまった。
 PIF総会のこれほどの盛り上がりを知った私が「わぁ~凄い、島嶼国への関心度がここまで高まったか」と驚いたら、ある事情通にあっさりと否定されてしまった。彼は「あのね、今回沢山の国や人が集まったのは、第一にPIF総会の第40回記念行事だったこと、第二に、たまたまニュージーランド開催のラグビー・ワールドカップの時期に重なったこと、第三には、この国は先進国だから、宿泊施設も交通網も十分に整っているので、何人参加しても大丈夫だったこと、これが理由です。」と説明してくれた。
 ご親切な解説、だがそれでも私は、かつてないほど多くの国々が集まった理由は、島嶼地域に対する国際的関心の高まりだと考えている。たまたま好条件が重なっただけ、とはとうてい思えない。というのも、昨年のPIF総会に至る前から、そしてその後も、周辺諸国による様々な島嶼地域への接触が起こっていたからだ。そうした動きの最たるものが、昨年6月のキャンベル米国務次官補らによる島嶼8ヵ国(キリバス、サモア、トンガ、ソロモン、PNG,パラオ、FSM,マーシャル)歴訪である。
 この旅でキャンベル次官補は、気候変動への対処プロジェクトとしてこの地域への2,100万ドル援助を表明した。ミクロネシア3国ならばともかく、米国の高官チームがポリネシア、メラネシアの国々を訪問するのは従来ならばあり得ない。旧信託統治領のミクロネシアは米国、そしてポリネシアとメラネシア諸国は豪州とNZの英連邦国家がカバーするという棲み分けができていたからだ。
 しかし、キャンベル次官補の島嶼国歴訪は、豪州との暗黙の了解事項を反故にして、これからは「島嶼地域全体への関与を深めていく」という米国の意思表示に他ならない。今から3年前、クリントン米国務長官は「もうこれ以上、豪州に南太平洋地域を任せておくことはできない」と発言したが、そうした米国による太平洋政策の転換が今、実行に移されつつあるのだろう。オバマ大統領は、豪州への海兵隊駐留を決め、今年の一般教書演説の中でも米国が太平洋国家であることを強調した。こうした米国の一連の行動が、島嶼地域が有する戦略的重要性への認識を一気に高めていると言えるだろう。周辺諸国が今、島々に注目する理由がここにある。この流れを引き出したのは、中国の太平洋進出であるのは言うまでもない。こうして太平洋をめぐる国際関係の構図が変容していくのだが、如何なる新しい構図が作り上げられるのかは、これからの周辺諸国による国際政治にかかっている。
 翻って我が日本の国内に目を転じれば、太平洋地域がこうした重要な局面を迎えていることが十分に認識されているのだろうか。今の政権事情を見ると甚だ心配になるが、この時期に「太平洋・島サミット」を主催できるのだから、過去の実績を踏まえ、この絶好の機会を逃さずに太平洋の新秩序作りに乗り出して欲しい。日本は、太平洋地域の行く末を見守る傍観者ではなく、新しい構図を作り上げる重要なアクターでなければならないからだ。
これからの日本の重要外交課題である東アジアの海洋安全保障やTPP議論の対象となる環太平洋地域における諸問題も、島嶼地域を取り込んだ新しい太平洋秩序形成の先に連動してある。それゆえにこそ、今年の島サミットでは確固たる日本のリーダーシップが期待されるのだ。 (小林 泉)

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