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140-巻頭言「今までと違う太平洋・島サミット」

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巻頭言

今までと違う太平洋・島サミット


 去る5月下旬、3年に一度の太平洋・島サミットが実施された。沖縄県名護市での開催はこれで三度目。しかし今年の島サミットは、これまでとは様々な点で従来とは違う姿を見せた。15年前に始った政治イベントだったから、時代に合わせた変身はむしろ当然のことだろう。当時と今とでは、日本の国内事情も島々を取り巻く国際環境も大きく変容しているのだから。
 では、従来と何が異っていたか? まずは、マスメディアだ。新聞、テレビが一斉に、しかも複数回にわたって島サミットを報道した。これまでの無関心をよそに、突然ジャーナリズムがこの首脳会議に注目したのはなぜか。それは事の重要性とその意義を十分に理解したからではなく、新聞の見出しになり易い話題やテレビの映像にぴったりの場面が少なからずあったからだ、と私は少しばかり皮肉な見方をしている。各紙に踊った「海洋覇権 中国を牽制」とか「中国の太平洋進出を警戒」といった人目を引く見出しがそれである。また、映像を飾ったのは、福島いわき市のフラガール。彼女たちは、東日本大震災からの復興と絆のシンボルとして「島サミット・親善大使」に任命され、政治イベントの後先に決まってフラダンスを披露した。日本人が踊る南洋のダンスに、島嶼国首脳は大いなる親近感を抱き、日本人もまたこの華やかな踊りを通して島々に関心を寄せた。こうしてフラガールの活躍は、動きの少ない地味な会合に随所で華を添える大きな役割を果たすことになったのである。
 メディアの注目点がこんなことならば、首脳会議の本当の重要性や意義をきちんと伝える報道だったとは言えないのではないか。こんな見方もあるだろう。しかし、島サミットの知名度を一気に高め、島嶼諸国の存在を広く一般に認知させたという点では十分意味があったと思う。まず関心を呼び起こすこと、これがなによりも島嶼理解の第一歩となるからだ。
 とはいえ、日頃から太平洋に関心を寄せる方々には、あまり報道されない島サミットの本質的変化についても知って欲しいと思う。その一つが、日本語の正式名称だった「日本・PIF諸国首脳会議」を今回は使わずに、俗称の「太平洋・島サミット」で統一したことだ。敢えて、名称変更の宣言はしていないが、日本語文章の中から前者の名称は消えている。二つ目は、クック諸島を共同議長国にしたこと。慣例的順番ではニュージーランド(NZ)が議長国になるはずだった。だが、それを回避するために政府は外交関係のなかった自治領クック諸島を国家承認し、そのタイミングでNZに代わってクック諸島の共同議長を他の国々に了承させた。もちろん島嶼諸国は大歓迎だった。
 実は、この二つの変更には、「島サミットは日本と島嶼諸国の対話会合であって、PIF諸国とはいえ豪州・NZを念頭には置いていない」との日本政府の明確な意図が込められている。というのも、当初から島嶼国相手のはずだった島サミットに、PIF加盟国である豪州・NZが様々に口を出す機会が多くなっていたからだ。米国の初参加も、これと無縁ではない。日本が米国を引き入れたのは、「中国への牽制力を強化するためだ」という報道が目立ったが、実はそれよりも豪州・NZを米国とともにドナー国グループとして囲い込み、島サミット自体への直接的影響力を弱めようとする意図があったからだと私は見ている。オセアニアという曖昧な地域概念の中で、対豪州、NZと対島嶼国外交は別々に取り組むべきもので、こうした認識は島サミットの回を重ねることで学び得た成果だったと言える。近年、島サミットを真似る周辺大国が出てきているが、いずれの国も島嶼国だけが相手だから、豪州、NZの干渉を受けていない。これは、日本の後を追った後発諸国の知恵だったのだろう。
 三つ目の違いは、資源利用、環境保持、安全保障等々を含む海洋政策や海洋協力をこの会議での継続的主要テーマとしたこと。このことは今後の島サミットのあり様を方向付ける重要性を秘めている。これまで曖昧だった様々な海洋問題を、海洋秩序形成のための協力体制の確立という目標の中で議論していくことこそが、太平洋共同体へと通ずる道であると思われるからだ。日本と島嶼諸国との間で、しっかりと海洋秩序が保たれていけば、中国の太平洋進出も決して脅威にはならないと私は考えている。
 このように第6回島サミットは、今後も重要会議として継続させて行くに必要な変化を遂げて成功裡に終了した。民主党政権に代わって心配する向きもあったが、外交に弱い政権だったのが功を奏して、つまらぬ政治的思惑や横槍が入らずに外交の継続性が保持されたからだ。フィジーの首相を招待できなかったことなど、積み残した問題も幾つかあるが、これらの解決も含めて、政府は総合的な海洋政策の一環という大きな視点の中で島サミットに取り組んで欲しい。それが、太平洋国家日本が元気よく生き続ける条件になると思うからである。(小林 泉)

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