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142-<パラオ短信>3期目のレメンゲソウ政権半年のトピックス

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<パラオ短信>

3期目のレメンゲソウ政権半年のトピックス
~外国漁船による商業漁業禁止か ~

上原 伸一


 昨年11月6日の選挙でパラオで初めて大統領に3選されたトミー・レメンゲソウ氏は、今年1月17日の11時に就任式を行い、3期目の大統領業務に就いた(1)。2月末にはプレスオフィスを公式に設立し、マスコミからの問い合わせに答えるなど開かれた政治を目指している。 7月末までのレメゲソウ政権発足後約半年間のパラオの動向を簡単に紹介する。

<1>難航した大臣承認
 昨年の総選挙では、ジャンセン・トリビヨン前大統領への批判が大変強かったため、議会で多数派を占めていたトリビヨン派の前議員の多くが落選した。結果として、レメンゲソウ大統領に近いメンバーが議会の多数を占めることになった。しかし、大臣の任命には、上院の3分の2の多数による承認が必要である。上院定数13 名の内8名が大統領よりの多数派であるが、 3分の2には1名足りないため上院の承認が得られず、なかなか大臣が決まらない状況が続いた。特に、財務大臣及び教育大臣については、レメンゲソウ大統領が自分の任命する人物に固執したため、 4度にわたり上院に承認を拒否される事態になった。結局、財務大臣には、自由連合協定交渉担当のビリー・クワルテエイ氏を任命し、上院の承認を得た(2)。教育大臣は7月末現在未定。各大臣は以下の通り。

司法大臣          アントニー・ベルス副大統領(兼務)
自然資源・環境・観光大臣    ウミ-・センゲバウ
社会・文化大臣                  バクライ・テメギル
保健大臣          グレッグ・ニルマン
財務大臣          エルブエル・サダン
公共基盤・産業・商業大臣  チャールズ・オビアン
国務大臣                           ビリー・クアルテエイ
教育大臣          未定

なお、辞任したミノル・ウエキ駐日大使の後任は、フランシス・マツタロー氏に決定。8月中旬に日本に赴任する。PCC(パラオ・コミュニティ・カレッジ)の校長を長く勤めていた人で、日本人の知り合いも少なくない。

<2>外国漁船による商業漁業禁止の動き
 レメンゲソウ大統領は、 3月12日パラオを訪問したモナコ公国のアルバート2世へのスピーチの中で、パラオの排他的経済水域における外国漁船による商業漁業の全面禁止の方針を表明した。現在は、ライセンス料を支払えば、外国漁船であっても商業漁業を認めているが、パラオ人及びパラオ居住者以外の商業漁業を禁止するというものである(3)。

 前大統領ジャンセン・トリビヨン氏は、重要な観光資源であるサメが商業的な捕獲により減少しているとして2009年にシャーク・サンクチュアリィ計画を打ち出し、サメの商業捕獲を禁止した。この政策は、広く太平洋地区の島嶼国に受け入れられ、同様にサメの保護を行う国が現出している。レメンゲソウ大統領は、以前からの環境保護派であり、サメの保護だけでは不十分として、海洋資源及び海洋環境を守るためには、外国漁船による商業漁業の全面禁止が必要と訴えた。その後の国内での説明会で、外国漁船による漁業は、パラオに対し入漁料とパラオからの輸出税収入をもたらすだけで、パラオ人の就業機会や収入を増やすわけではなく、メリットが少なく、それよりもパラオ全体にとって必要な海洋環境の保護がより重要であると趣旨を説いている。一方で、入漁料及び輸出関税収入は、年間数百万ドルになっており、この収入を補う他の収入源を見つける必要があることについては、大統領自身認めている。代替え収入源として大統領が期待しているのは、パラオの排他的経済水域全体をシー・サンクチュアリィとすることにより維持される「驚異的な」海洋環境をベースとした高付加価値観光による収入の増大と環境保護に対する寄付である。パラオの現在の年間の国家予算は、おおよそ 7,000万ドル規模であり、そこにおける数百万ドルの収入は相当な割合を占めている。後述するが、今年に入って観光客は昨年よりも若干の減少を見せている。代替え収入源の確保は相当な難問と思われる。パラオ近海は、カツオやキハダマグロの好漁場であり、キハダマグロの多くが名古屋を中心とした日本に輸出されている。5月17日には、大統領令により検討委員会が設置されており、今後の展開が注目される。

<3>戻らない治安

 本誌前号で報告した様に、ここ数年パラオでは殺人をはじめとする凶悪事件が起きている。新たな麻薬が青少年の間に蔓延していることが その主たる原因と考えられており、レメンゲソウ大統領は2月12日に大統領令を発して麻薬対策の検討委員会を立ち上げた。しかし、4月21日にはパラオ人同士の喧嘩でパラオ人1名が34カ所をナイフで刺される事件が起きた。さらに、7月20日には、強盗によりフィリピン人が刃物で傷つけられ重傷を負った。その前後には、パラオ人同士の争いで暴力事件が2件起きており、1名が死亡している。かつて1980年代には、独立の方針を巡るテロにより3名(内2名は当時の大統領)が暗殺される状況があったが、強盗や諍いによる凶悪事件は殆ど無かった。凶悪な強盗事件が繰り返される背景は、麻薬の流行のみなのか、パラオ社会に浸透する貨幣経済がもたらす弊害なのか、これ以上社会状況が悪化する前に根本的な分析と取り組みが必要である。

<4>観光客減少傾向
 2011年に観光客が初めて10万人を超え(109,057人)、昨年は118,754人と観光客は順調に増加していたが、今年に入り減少傾向が見られる。1月から5月までの5カ月間の累計観光客数は45,265人で昨年に比べ5%強の減少となっている。
日本と並んで観光客の中心となっている台湾からの減少が目立っており、5月末までで昨年比35%強の落ち込みとなっている。日本及び韓国からの観光客も微減している。日本については、4月から7月上旬まで、ボーイング787型機の運行停止の影響でJALのチャーター便が中止されていた影響が大きいと考えられる。ちなみに5月単月では、日本からの観光客は24%強減少している。ボーイング787型機の運行再開に伴い、7月19日からJALのチャーター便が再開されているので、今後日本からの観光客は持ち直すと考えられる。

 一方、中国本土からの観光客は、数こそまだ少ないものの急速な伸びを見せており、 5ヵ月間で4,339人と昨年比約2倍となっている。

<5>その他

〇外国人の国外送金に課税:4月末に、外国人が国外に送金する際に、送金額の4%が課税される法律が成立した。パラオ国内で消費するもの(サービスを含む)の外国からの買い入れに対する支払いについては課税されない。パラオには2012年の統計で、4,631人の外国人が居住しており、その多くがフィリピンやバングラデシュからの出稼ぎ労働者である。彼らは、自らが生計を立てるだけでなく、パラオで得た収入を母国に仕送りしているため、今回の法律には強く反発している。

〇人口減少:近年のパラオ人口は、おおよそ2万人で、そのうち5,000人から6,000人が外国人と言われてきた。 4月に発表された人口調査によると、 2012年のパラオの総人口は、 17,445人で、そのうちパラオ人は12,814人であった。ちなみに2000年が総人口19,129人(内パラオ人13,364人)、2005年が、総人口19,907人(内パラオ人14,438人)で相当な減少となっている。対前年比では、総人口、パラオ人、フィリピン人、その他外国人の全てにおいて2%前後の減少を示している。

〇批准されないコンパクト援助延長協定:2009年9月31日で終了した自由連合協定(コンパクト)に基づく経済援助の延長について、 2010年9月3日にはアメリカとパラオ両国政府は合意して延長協定に調印した。しかし、その後アメリカの緊縮財政の影響もあり、この延長協定は未だにアメリカ議会の承認を得られていない。レメンゲソウ大統領の訪米を受けて、6月27日に、アメリカ上院にロン・ワイデン議員がコンパクト延長協定承認法案を提出したが、今のところ承認されるかどうかは不明である。

 〇中国との国交樹立決議案:6月に上院副議長のバウレス氏は、現在の世界情勢に照らし、中国本土との正式な外交関樹立を促す決議案を提提出したが、下院議長アナスタシオ氏は、台湾との関係が重要でありこのような決議を下院は受け入れないと反論した。

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(1) 憲法の規定により、大統領は3期以上連続して勤めることが出来ないと定められているため、レメンゲソウ氏は2001年から2008年まで2期連続して大統領を務めた後、上院議員を1期務めて昨年改めて大統領に立候補し、3選を果たした。
(2) クアルティ氏は、自由連合交渉担当を兼務する。
(3) パラオ人やパラオ居住者による商業漁業、観光客の底釣りやスポーツフィッシング等については現在と同じ扱いとするとしている。

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