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144-巻頭言「安倍総理のオセアニア訪問」

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巻頭言

安倍総理のオセアニア訪問


 一昨年の首相就任以来、世界中を飛び廻る積極的外交を展開している安倍総理である。この分なら、オセアニア諸国を訪問する日が来るのもそれほど遠い先の話ではないだろう、と私たちの周りでは誰しもが期待していた。実際に、この一年、ミクロネシア諸国あるいはメラネシア諸国を訪問する計画があるとの噂は何度も耳にしていた。
 これがこの7月にようやく実現。豪州、ニュージーランドの後に、パプアニューギニア(PNG)に立ち寄ったのがそれだ。首相の島嶼国訪問は、1985年に中曽根総理がフィジー経由でPNG訪問を果たした時から、実に29年ぶり。その前の1980年に、環太平洋構想を掲げて登場した大平正芳首相がやはり豪州、NZの帰りにPNGを訪れているので、島嶼国を訪問した日本の首相としては3人目である。
 この度のオセアニア歴訪で、太平洋があらためて大きく注目されることになったのは、私たちにとっては真に有り難い。しかし、島嶼諸国の中で、あるいは日本にとってもミネラルブームに沸くPNGは特別な地位をしめる国だから、ここ一国で島嶼諸国訪問を代表することはできない。安倍総理にはまた別の機会に、小さな島嶼諸国を訪問する機会も作って欲しいものだ。
 実際にこの度のオニール首相との首脳会談では、他の島嶼国とでは成り立ちにくい資源外交や貿易・投資といった話題に、たくさんの時間が割かれたのである。だが、両国の経済関係は、既に新たな段階へと動き出していた。ちょうどそのころ、PNGが産出した液化天然ガス(LNG)搭載の日本向け輸出船第一便が、買い手の東京電力、大阪ガスに搬入するために向かっていたのだ。これが順調に進めば、現在のLNG年間輸入量の5%(450万トン)程度になる。2013年時点での最大輸入先は豪州で、1800万トン(20%強)。日本には、2019年までに、このオセアニア2国からのLNG輸入量を倍増させたい考えがある。安倍総理が、豪州、PNG両国に対してガス油田開発への協力を申し出たのも、今後3年間で200億円のODAをPNGに拠出すると約束したのは、このためだった。
 日本の総理を迎えるPNG側も、今回はそうとうに気合いが入っていた。実は2011年4月に「日本・PNG投資協定」が調印されたが、その後日本での国会承認がスムースに運ばず、同協定が批准・発効したのが本年の1月17日。そのため、従来の政治関係中心から経済関係の拡大を実現するお膳立てが、ようやく整ったと地元の期待は高まっていたのだ。今回、日本から13企業、2団体のトップが総理に同行したのは、今年を日本・PNGの経済関係拡大元年にしたいとする双方の期待の表れだろう。
 安倍総理はオニール首相との会談翌日、東セピック州の州都ウェワクを訪問した。PNG地域での日本人戦没者は12万人とも15万人とも言われているが、半数以上の遺骨は未だ回収されていない。総理の旅は、この地への慰霊が目的だった。この地は、PNG建国の父とも言われるマイケル・ソマレの出身地であり、現在は州知事を務めているが、ここで一つ、この地にまつわるエピソードを紹介しておきたい。
 昭和19年に住民宣撫の目的で、陸軍中尉柴田幸雄がウェワクに派遣された。彼はこの地に学校を建設し、地元民に日本語、英語を教育するとともに、植民地化への抵抗の意味を教えた。その教え子の中にマイケル・ソマレがいたのである。ソマレが最初に受けた学校教育が日本語で、それ以来、ずっと日本贔屓になったと彼自身が語っている。昭和60年、首相として来日したソマレは、宇都宮で飲食店を営んでいた柴田氏を捜し当て、感激の再会をしたという当時の新聞記事を私は見たことがある。日本人としては良い話だと思うが、この話を知って安倍総理が記者会見で披露したところ、韓国メディアが早速反応して、「過去の日本軍の行為を美化し、戦争を肯定する日本の首相」と書いた。そんな反日報道は、日本とPNG関係の展開に何も影響を与えないけれど、「何でも文句をつける材料になるのだな」と苦笑するばかりだ。
 いずれにせよ、この度の総理のPNG訪問は、ここ一国との関係だけに止まらず、他の13島嶼諸国との関係性をさらに強力に推し進めていくきっかけになるだろう。来年5月に福島県いわき市で開催予定の第7回太平洋・島サミットについては、その中身を決める作業が始まっているだろうし、天皇・皇后両陛下のミクロネシア訪問も実現性を検討しているようである。本誌が発刊された直後には、フィジーで民主化選挙が行われ新政府ができるはずだから、そうなれば日本も新たなフィジー対応を打ち出さなければならない。あれもこれも、暑い夏が終わる頃には、オセアニア問題は大忙しになる予感がする。 (小林 泉)


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