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146-<パラオ短信>中国からの観光客増加止まらず

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<パラオ短信>

中国からの観光客増加止まらず

-パラオ側に混乱も-

上原伸一(うえはら しんいち)


 昨年急速に増加し、とりわけ後半の爆発的な伸びでパラオ観光客の1位に躍り出た中国は、今年に入ってからもその勢いが衰えず、他国を圧倒している。パラオ政府は香港・マカオからのチャーター便を減便して対応しているが、流れは変わっていない。あまりに急速な中国観光客の増加は、パラオの観光状況に影響を与えており、パラオ側に様々な影響が目立ってきた。

 来年は4年に一度の正副大統領及び国会議員の選挙の年で有り、選挙に向けての動きも出てきた。この二つの話題を中心に、現況を報告する。

<1>衰えない中国観光客の勢い
 中国からの観光客は、昨年後半の爆発的な増加の勢いを今年前半も維持している。1月から7月の累計で5万4155人(1)で、前年同期の4倍以上である。この中国からの観光客増を受けて、7月までのパラオ観光客数は9万7624人となっており、昨年の約32.5%増で今年も記録を更新しそうな勢いである。中国からの観光客は全体の55%強を占めており、コロール市内の雰囲気や風景が相当に変わってきている。
 コロール州では、 7月1日から看板について、 4フィート×6フィート以内でパラオ語又は英語の訳をつけることとの規制を開始した。急増する中国人観光客向けの看板が増えて、美観を損なうことや中国語のみのため内容がよく分からない状況になっていることへの対応である。
 一方、今まで観光客の中心であった日本、台湾、韓国は今年に入って軒並み減少している。 1月-7月期で見ると、日本20.6% 、台湾56.8% 、韓国17%の減となっており、この時点で中国以外で観光客が1万人を超えているのは日本だけである。中国からの観光客のほとんどは、パッケージツアーの客であり、個人ツアー或いは航空機及びホテルのみのフリーツアーを中心とする日本等からの観光客とは大きく違う様相を示している。中国からのパッケージツアーのために早くからホテルが抑えられてしまっているため、ホテルの予約が出来ず日本、台湾、韓国の観光客減につながっている。また、観光客増によりパラオの収入は増加しているが、効率は良くないとの分析も行われている。
 高付加価値観光による継続的な発展を目指しているパラオとしては、現在の状況は必ずしも望ましいものとはいえない。中国からの観光客の勢いはいつまで続くか分からない状況であり、一国からの観光客が全体の半分を超える状況は観光業全体の安定という点からも問題である。時々台湾に首位の座をあけ渡していても、ずっとパラオ観光客の中心であった日本は、シェアが最も高い時でも4割程度であり、なおかつ1996年に2万人を超えてからは、多少の増減はあっても2万人を割ることはなく、基本的に漸増傾向で2012年が3万9353人で過去最高、昨年は3万7000人強である。これに対し、今年7月までの中国からの観光客数は5万4000人強で既に昨年を超えており、その増加がいかに異常かが分かる。
 前号で既報の通り、レメンゲソウ大統領は香港およびマカオからのチャーター便減便を検討していたが、2月25日チャールズ・オビアン公共基盤・産業・商業大臣はマカオ及び香港からのチャーター便を4月15日から半分に減便することを発表した。対象となる航空会社は、アジア航空、ダイナミック航空、パラオパシフィック航空、メガモルディブの4社で、これらのチャーター便の乗客の95%から99%が中国からの観光客である。パラオ政府観光局や商工会議所はこの方針を支持したが、これらの航空会社や一部観光業の関係者等からは異論が出た。これに対し、レメンゲソウ大統領は、関係者からなるチャーター便再検討委員会を設置した。チャーター便再検討委員会は、現行関係者への影響の大きさに鑑みて減便を10月15日まで延期する勧告をまとめた。しかし、政府は当初予定を変更せず4月15日から香港およびマカオからのチャーター便半減を実行した。

 月別観光客数の表でも分かるように、チャーター便が半減されてからも中国からの観光客は大きく減ってはいない。アシアナ航空及び大韓航空の利用が増えている。

<2>スランゲル・ウィップスJr.大統領選へ
 スランゲル・ウィップスJr.上院議員は、 5月22日ラジオのインタビューに答えて、来年の大統領選に立候補することを明確にした。これにより、現時点で大統領選への立候補を明確にしているのは、レメンゲソウ大統領、チン上院議長、スランゲル上院議員の3名となった。
 スランゲル上院議員は、 2008年の大統領選で父親のスランゲル・ウィップスSr.氏が予備選で敗れた後、急遽ライトイン(立候補ではなく投票者による書き込み)により上院を目指し、6709票を集めトップ当選を果たした。前回2012年の選挙では、正式に上院に立候補し、7411票でやはりトップ当選。チン上院議長は6916票で2位であった。この時は、スランゲル上院議員の弟のメイソン・ウィップス氏も6121票を獲得し4位で上院に当選している。同列には比べられないが、レメンゲソウ大統領の本選挙での得票は6140票であった。スランゲル上院議員はとりわけ若者に人気が高く、早速フェイスブックで応援サイトを立ち上げ多くの支持を集めている。
 前回大統領選では、現職のジャンセン・トリビヨン大統領(当時)への批判が強く、トリビヨン氏への対抗馬としてレメンゲソウ氏とサンドラ・ピエラントッチ氏が立候補。レメンゲソウ氏の親戚であるチン氏は、話し合いで大統領立候補を取りやめて上院に回った。また、スラングル氏はトリビヨン政権への反対姿勢を明確にし、レメンゲソウ氏を支援した。今回は、前回協力してトリビヨン氏に対抗した3人が大統領を争う構図となる。ちなみに、トリビヨン氏は今回立候補しないことを1月に表明している。
 上院では、チン議長及びウィップス兄弟などが多数派を形成し親レメンゲソウ大統領派を形成していたが、前号既報のように昨年11月段階でチン議長が反大統領派と結び、多数派が入れ替わった。 6月25日の上院審議のビデオ放送について、上院の少数派から部分的な編集が行われているとの抗議が行われ、チン議長が全面的に否定するという事件があった。来年に向けて、パラオは徐々に政治の季節へと向かっている。

 なお、現段階で副大統領に立候補しているのは、ヨシタカ・アダチコロール州知事とレイモンド・オイロー上院議員の2名。

<3>両陛下ご訪問こぼれ話
 4月8 ,9日の両陛下のパラオ慰霊の旅は、日本のテレビや新聞に大きく取り上げられた。パラオファンの多くの人達もこの時、パラオに入り、様々に取材をしている。
 両陛下の車列が進むコロールのメイン道路には、パラオ市民が両国の旗を持って歓迎していたが、道路両側を警官や停止線で完全に塞ぐというような日本で見られる厳重な警備ではなかったことはテレビニュースで報道されたとおりである。無論、そこまでの警戒を必要とする状況にもないことは明らかだが、それだけの警官がパラオにいないことも事実である。そのお陰で、日本では「報道」の特権がない人達はまず撮れないようなかなり近くからの写真やビデオ撮影が行われフェースブック等のSNS(ソーシャルネットワークサービス)に多く掲載された。大通り沿いのビルの上階や屋上からの撮影も多く、日本では見られない角度からの影像が見られた。

 日本のマスコミでは報道されていなかったが、両陛下はパラオ市民との交流だけでなく、パラオ在住日本人とも交流されている。その席で、パラオでも有名な名物おかみさんが、「また遊びに来て下さいね」と言って会場の爆笑を誘ったとのことである。実は、皇后陛下がテレビ番組を見て、このおかみさんのファンになっておられ、大使館から本人に、皇后陛下からお声がかかると思いますよと事前に告げられていたそうである。ご本人は、自分の話そうと思ったことを紙に書いて冷蔵庫に貼り、毎日練習していたが、お声をかけられた途端に頭の中が真っ白になり、すべて忘れて、思わずいつもの調子でお答えしてしまったとのこと。結局、彼女らしいいつもの親しみが良く出て、パラオらしい素直な歓迎の気持ちが伝わったのではと、パラオフリークの間では評判である。

<4>その他
 ① マリンサンクチュアリィ法案:国会で審議中。各州議会や州知事、伝統的酋長たちから数多くの賛成が寄せられており、レメンゲソウ大統領は早い法案成立を目指し、たびたび議会リーダーと話し合いを行っている。マリンサンクチュアリィ実現に伴い各州の収入が減少するため、訪問者に対し、現在グリーンフィー30ドル及び出国税20ドルを徴収しているが、これをやめてまとめて100ドルを航空会社を通じて徴収し、そのうち12.5ドルを各週に配分する案が出てきている。
 ② ベトナム違法漁船4隻焼却処分:カヤンゲル沖合で不法操業中に拿捕したベトナム漁船6隻のうち4隻をパラオ政府は6月に、海上で焼却処分した。乗組員77名は残りの2隻で帰国させ、船長2名は裁判に向け拘留中である。昨年来15隻のベトナムの違法操業船が拿捕されており、レメンゲソウ大統領は、違法操業を許さないという強いメッセージを示したものとしている。これに対し、上院多数派(反大統領派)のジョエル・トリビヨン上院議員は、権限を越えた不当な対応と大統領を非難している。
 ③ 3G通信開始:2月9日からパラオでも3Gの通信が開始され、携帯でのインターネット利用が便利になった。なお、7月1日からは、30日間で1GBまで49.9ドルの3Gプリペードカードが発売された。

 ④ クウェートとの国交樹立:5月26日にクウェートとの国交を樹立した。


(1) 正確には、観光客及びビジネス、投資のための入国者を合わせた数字であるが、そのほとんどは観光 客である。

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