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141-フィジー2013年憲法草案の概要について

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フィジー2013年憲法草案の概要について

苫小牧駒澤大学教授 東  裕

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はじめに

2012年7月からフィジー新憲法の作成作業を進めていたフィジー憲法委員会(Fiji Constitution Commission)は草案作成を完了し、2012年12月21日、ヤシュ・ガイ(Yash Pal Ghai)憲法委員会委員長からラツー・エペリ・ナイラティカウ(Ratu Epeli Nailatikau)大統領に新憲法草案が手渡された。この憲法草案は、12月21日以前に外部に「流出」し、PDFファイルがインターネット上のフィジーリークス(Fijileaks)に掲載されたことで問題となったが、いずれ公開が予定された文書ではある。しかし、現時点ではまだ正式に公開されていないため、本稿ではフィジーリークスに掲載された草案をもとに紹介する。もし、政府から公開されたものがここに掲載されたものと異なった場合、そのような「修正」がどこで行われたかが問題となろう。今後、この草案は憲法議会(Constituent Assembly)に提出され、審議される。本稿では、この草案の全条文目次を示し、次に各章ごとに主要な特徴を示し、草案の全容を紹介する。

1.フィジー共和国憲法(2013年)・憲法委員会草案条文目次

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フィジー共和国憲法(2013年)

前文

第1章-基礎規定
1.フィジー共和国
2.憲法
3.憲法の下での権力及び権威の支配的価値
4.主権的権威の配分
5.言語
6.宗教
7.フィジー国民
8.国民統合
9.フィジー市民

第2章-我々の自然遺産
10.自然環境
11.現在の土地権の保障
12.土地使用及び環境保護の諸原則
13.漁場及び海域
14.天然資源
15.土地及び資源に関する協議義務
16.国民協議土地フォーラム
17.土地法制の保護と改革

第3章-我々の人権
第A部-権利章典
18.権利及び自由
19.生命の権利
20.尊厳の権利
21.平等権と差別からの自由
22.市民
23.奴隷、隷従、強制労働及び人身売買からの自由
24.自由及び個人の安全への権利
25.プライバシーの権利
26.宗教、信条及び意見の自由
27.表現、出版及びメディアの自由
28.移転及び居住の自由
29.結社の自由
30.集会、デモ、ピケ及び請願の自由
31.政治的権利
32.情報へのアクセス
33.教育
34.経済的参加
35.十分な生活水準への権利
36.雇用関係
37.恣意的収用からの自由
38.環境権
39.行政及び管理の公正
40.裁判又は審判へのアクセス
41.逮捕者及び被勾留人並びに受刑者の権利
42.公正な裁判への被告人の権利
第B部-特定集団の権利及び自由
43.特定の集団に関する権利
44.身体障害者
45.女性、男性及び家族
46.高齢者
47.文化的、宗教的及び言語的コミュニティ
第C部-権利章典の適用
48.法の下での権利の制限
49.緊急事態における権利の制限
50.権利の適用
51.本章の解釈
52.フィジー人権委員会

第4章-市民的及び政治的生活
第A部-コミュニティと市民社会
53.市民社会
54.市民社会の規制
55.公的決定への国民参加
56.大酋長会議の承認
第B部-公共メディア
57.公共メディアの規制
第C部-政党
58.政党の基本要件
59.政党資金
60.選挙運動
61.政党に関する立法

第5章-良い統治とリーダーシップ
62.公共への奉仕
63.リーダーシップの諸原則
64.公職者の行為
65.内部通報者の保護
66.倫理及び誠実委員会
67.公職追放の基準と手続き

第6章-全国国民会議
第A部-会議の機能と構成
68.会議の機能
69.会議の構成
第B部-会議の市民社会メンバーの任命
70.憲法上の公職委員会による任命
71.選挙委員会によるメンバーの任命
72.任期と欠員

第7章-大統領
73.フィジー大統領
74.大統領選挙
75.大統領職の就任
76.欠員と大統領代行

第8章-国民の代表
77.代表政府
78.選挙人の資格と登録
79.比例代表制
80.議会選挙への立候補者
81.選挙後の議席配分
82.選挙委員会

第9章-国会
第A部-国会の設置、役割及び構成
83.国会の設置
84.国会の役割
85.国会の構成
86.国会選挙の期日
87.国会の任期
88.任期満了前の解散
89.議員の資格と欠員
第B部-国会役員、委員会、開会及び業務
90.国会の議長及び副議長
91.議長及び副議長の選出
92.野党代表
93.国会議員でない大臣
94.委員会
95.議事規則
96.選挙後初の議会
97.国会の他の会期
98.定足数
99.投票
100.国会における言語
101.請願、パブリックアクセス及び参加
102.権限、特権、免責及び紀律
103.証人喚問権
104.国会事務総長及び職員
第C部-国会の立法権
105.国会の立法的役割
106.立法権の行使
107.予算法案
108.大統領の同意及び付託
109.法律の効力発生
110.規則及び類似法
111.国際合意に対する議会権限

第10章-国の行政部
第A部-国の行政部の諸原則と構造
112.行政権の諸原則
113.内閣
第B部-首相
114.首相職
115.首相選挙
116.首相不信任
第C部-大臣
117.大臣の任命
118.大臣職の任期

第11章-司法及び法の支配
第A部-司法の諸原則
119.法の下の司法
120.裁判所の憲法実施権限
第B部-裁判所
121.司法部の権限と独立
122.司法制度
123.最高裁判所
124.控訴裁判所
125.高等裁判所
126.軍事裁判所
127.裁判所規則及び手続き
第C部-裁判官
128.裁判官の独立
129.裁判官の任命
130.任命の基準及び資格
131.その他の任命
132.職務宣誓
133.裁判官の任期
134.裁判官及び司法職員の免職原因
第D部-独立司法制度
135.司法業務委員会
136.法曹
137.法務次官
138.公訴局長
139.恩赦委員会

第12章-地方政府
140.地方政府のシステム
141.地方政府の構造
142.地方政府の責任と説明責任
143.中央政府との協働

第13章-独立委員会及び独立官職
144.独立委員会及び独立官職の設置と目的
145.委員会及び官職の独立
146.委員と官職の独立
147.独立委員会及び独立官職の権限
148.独立委員会及び独立官職の業務と説明責任
149.独立委員会及び独立官職への任命
150.任期と欠員
151.憲法的公職委員会

第14章-財政
152.財政の諸原則
153.予算の年次提出
154.予算
155.予算可決前の支出
156.歳入
157.借入及び保証
158.統合基金
159.その他の公的基金
160.公的資金及び弁済提供の管理
161.給与及び諸手当委員会
162.会計検査官
163.フィジー準備銀行

第15章-公共管理
164.公共業務の諸価値と諸原則
165.業務の質
166.公務員の任命
167.事務次官
168.公共業務委員会
169.公共業務委員会からの訴え
170.オンブズマン
171.オンブズマンの権限
172.オンブズマンによる告訴と調査

第16章-国家安全保障
173.国家安全保障の諸原則
174.国家安全保障の諸制度
175.国家安全保障評議会
176.フィジー共和国軍
177.軍司令官
178.警察及び矯正業務委員会
179.警察長官
180.矯正長官
181.緊急事態

第17章-憲法の改正
182.憲法上の諸原則、諸価値及び選挙制度の保護
183.憲法修正手続き

第18章-解釈及び発効
184.憲法解釈の諸原則
185.定義
186.憲法理解のための指針
187.経過規定、取消及び重要な修正
188.発効及び表題

スケジュール1-市民権
スケジュール2-土地及び土地権尊重のため保護される法律
スケジュール3-宣誓又は証言
スケジュール4-国の公職者の行為規程
スケジュール5-国の公職者の免職
スケジュール6-経過規定
スケジュール7-法律及び政令の失効
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2.各章の概要

(1)第1章-基礎規定(Funding Provisions)
フィジー共和国(1条)、憲法(2条)、憲法の下での権力及び権威の支配的価値(3条)、主権的権威の配分(4条)、言語(5条)、宗教(6条)、フィジー国民(7条)、国民統合(8条)及びフィジー市民(9条)の9か条から成る。
 第1条では、「我々、フィジー国民は、一つに統合された、多文化国民であり」((1)項)、「フィジーのすべての主権的権利は国民に属し、フィジー共和国は、主権、民主国家である」((2)項)とし、多文化国家としての国民統合とこれまでの3つの憲法にはなかった国民主権の規定がおかれている。
 第2条では、憲法はフィジーの最高法規であることを宣言するとともに、「すべての国民は、この憲法を尊重し、支持し、そして擁護する義務を負う」((1)項)とし、国民の憲法尊重擁護義務が初めて規定された。そして、持続的な民主主義を確立しクーデタ文化(the culture of coups)を根絶するために、この憲法によらない方法で政府を樹立しようとするいかなる試みも違法((3)項(a)号)であり、この憲法の施行日以降に、もしそのような試みがなされた場合、その試みの後になされたことはすべて無効であり((3)項(b)号(ⅰ))、その企図に関与した者の免責はいかなる法律によっても認められない((3)項(b)号(ⅱ))と宣言している。
 第4条では、主権的権威の配分として、国民の主権的権利を国民に代わって行使する国家機関の権力を伝統的な三権分立よりさらに細分化し、権力の分割と制限を進めることで民主主義の確保を目指している。とくに、「全国国民会議」(National People’s Assembly)の設置が注目される。
 第5条では、フィジー語(iTaukei)とロツマ語を原住民の言語とし、すべての国家機関にその尊重と使用の促進を義務づける一方、英語・フィジー語・ヒンズー語が国家に於いて同等の地位にあることを認めている。

 第6条では、権利章典で認めらた信教の自由は、この憲法の基礎原則の一つでもあり、宗教は個人的なものであるとし、宗教と国家の分離を謳っている。

(2)第2章-我々の自然遺産(Our Natural Heritage)

 自然環境(10条)、現在の土地権の保障(11条)、土地使用及び環境保護の諸原則(12条)、漁場及び海域(13条)、天然資源(14条)、土地及び資源に関する協議義務(15条)、国民協議土地フォーラム(16条)及び土地法制の保護と改革(17条)の8か条からなる。この章では、フィジー諸島の豊かな自然環境を保護し未来の世代に引き継ぐ責務があることを確認し、現在の土地保有権及び土地に関する諸権利を保障し、土地及び天然資源の開発・利用にあたって地権者との協議の場として「国民土地協議フォーラム」(National Consultative Land Forum)を設置すること等が規定されている。

(3) 第3章-我々の人権(Our Human Rights)
 この章は、第A部-権利章典(Bill of Rights)、第B部-特定集団の権利及び自由、第C部-権利章典の適用(Applying the Bill of Rights)の3部35ヵ条からなる。権利章典(A部)には25ヵ条の規定がおかれ、ここでは各国憲法に一般的に見られる自由権・参政権・国務請求権・社会権に関する諸規定のほか、「新しい人権」と呼ばれる、プライバシーの権利(25条)、情報へのアクセス権(32条)、環境権(38条)の規定がおかれている。
 特定集団の権利及び自由(B部)では、身体障害者(44条)、女性・男性・家族(45条)、高齢者(46条)、及び文化的・宗教的・言語的コミュニティ(47条)の権利・自由への特段の配慮が定められている。

 権利章典の適用(C部)では、この章で保障された権利・自由は、人間の尊厳、平等及び自由に基づく開かれた民主社会において合理的かつ正当な制約の範囲内で法律による制限に服すること(48条)、緊急事態が宣言された場合に権利・自由が一定の制限を受けることが定められている(49条)。そして、この章はすべての法律に適用され、国会、内閣、裁判所及びすべての国家機関を拘束することが確認され(50条)、裁判所等が本章の規定を解釈する際の解釈原則が示され(51条)、人権保障の推進と監視に当たる独立委員会たる「フィジー人権委員会」(Fiji Human Rights Commission)の設置が定められている(52条)。

(4)第4章-市民的及び政治的生活(Civic and Political Life)
 この章は、第A部-コミュニティと市民社会(Community and Civil society)、第B部-公共メディア(The Public Media)、及び第C部-政党(Political Parties)の3部9か条から成る。コミュニティと市民社会(A部)では、民主的立憲主義の政治生活における市民社会の役割を承認し(53条)、その活動の規制は一定の場合に限られること(54条)、公的決定への国民参加は国民主権の直接的行使であり、フィジーの民主的文化を強化すること(55条)、そして大酋長会議(Bose Levu Vakaturaga)が原住民フィジー人(iTaukei)の文化と伝統の管理人(custodian)であり、そして市民社会の不偏不党の機関として承認されている(56条)。
 公共メディア(B部)では、思想の自由で開かれた議論と宣伝は民主社会にとって不可欠であることを確認した上で、放送その他の電子メディアは電波その他の信号の割当規制の目的のためにのみ免許を受けることが定められている(57条)。

 政党(C部)では、各政党が憲法の最高法規性と法の支配を支持すること、国民統合を推進すること等の基本要件が定められ(58条)、政治資金については外国人献金の禁止や政治資金の年次報告が義務づけられ(59条)、選挙運動の際の公共放送の利用等が認められ(60条)、そして国会に対し政党法の制定を義務づけている(61条)。

(5)第5章-良い統治とリーダーシップ(Good Governance and Leadership)
 本章では、公共への奉仕(62条)、リーダーシップの諸原則(63条)、公職者の行為(64条)、内部通報者の保護(65条)、倫理及び誠実委員会(66条)、公職追放の基準と手続き(67条)の6か条の条文が置かれる。

 公共への奉仕として、憲法の下での公務員の権限と責任は公共の信託と信頼に基づくものであり、憲法の定める諸価値、諸原則及び目的に合致するよう行使しなければならない等の公務員倫理が規定されている(62条)。リーダーシップの諸原則では、民主的リーダーシップ(democratic leadership)の指導原理として、公益のみに基づく奉仕、国民への奉仕における誠実、精励、責任及び規律などが掲げられ(63条)、公職者の行為では、大統領をはじめとする国家の主要な公職にある者は公私両面の生活や人的交流において、個人的利益と公職における義務の葛藤を生み出すような行為を避けなければならないといった行動倫理が定められている。その他には、国家機関に勤務する者の内部情報の開示に関する内部通報者規定(63条)や憲法13章に定められた独立委員会としての国家機関の行為に関する「倫理及び誠実委員会」(Ethics and Integrity Commission)の設置(66条)、無能力や非行による国家公務員の免職の基準と手続について規定されている(67条)。

(6)第6章-全国国民会議(The National People’s Assembly)

 この憲法によって、あらたに全国国民会議(The National People’s Assembly)が設置される。本章は、第A部会議の機能と構成(68条・69条)、第B部会議の市民社会メンバーの任命(70条~72条)の二部から成る。全国国民会議は、毎年10月の第1週に開催され、新たな国民的課題や憲法に規定された国家目標の実現に向けたプロセス等について検討する会議である(68条)。その構成は、大統領・大統領経験者・国会議長・同副議長・首相・閣僚・野党代表・首相が選ぶ国会議員4名・野党代表が選ぶ国会議員6名・都市部の地方政府代表10名・非都市部の地方政府代表10名・オンブズマン・フィジー人権委員会委員長・倫理及び誠実委員会委員長・憲法上の公職委員会が任命する男女各10名、市民社会が指名する者から選挙委員会が任命する男女各36名(69条)。このうち、憲法上の公職委員会が任命する男女各10名、および市民社会が指名する者から選挙委員会が任命する男女各36名の選出手続については、それぞれ70条と71条に詳細な規定がおかれ、72条で任期は3年と定められている。

(7)第7章-大統領(The President)

 フィジー大統領は、国家元首であり、共和国、国民統合及び国民主権の象徴と規定され(73条(1)項)、その道徳的権威でもって大統領は国民的価値と共和国の目標の実現を推進する(同条(2)項)。大統領は、全国国民会議と全国会議員が集会する合同会議で選出され、任期は5年(74条(1)(2)項)。大統領の権能は、国家元首として国を代表し、外交使節の接受、裁判官の任命、独立委員会委員の任命、恩赦権の行使、栄典の授与等が定められている(74条(3)項)。

(8)第8章-国民の代表(Representation of the People)

 本章では、フィジー国民は選挙によって選ばれた国会議員と地方政府を通じてその主権的立法権を行使し(77条(1)項)、選挙は選挙委員会が管理し自由かつ公正に秘密投票によって行われる(同条(2)項)。選挙権は18歳以上のフィジー市民に与えられ(78条(1)項)、選挙委員会は、選挙区ごとに区分された単一の共通有権者名簿を調製しなければならない(同条(2)項)。国会議員選挙は拘束名簿式比例代表制で行われ、全71議席のうち60議席が大選挙区の選挙区から選出され、残りの11議席は候補者を擁立した政党のうち、全国で投票総数の1%以上の得票のあった政党間で得票率に応じて配分される(79条(1)(2)項、81条(1)項(b)号)。政党に所属しない無所属での立候補も認められている(80条(1)項(b)号)。選挙管理のため、憲法13章に定める独立委員会として選挙委員会が設置される(82条)。

(9)第9章-国会(Parliament)
 本章は、第A部-国会の設置、役割及び構成(83条~89条)、第B部-国会役員、委員会、開会及び業務(90条~104条)、第C部-国会の立法権(105条~111条)から成る。
 国会の地位について次のように規定されている。「(1)共和国の立法権は国民に由来し、国会に与えられ国会が行使する。(2)国会は国民の多様性と統合を表明し、国民の意思を代表し、そして国民の主権を行使する。(3)国会はこの憲法を保護し、共和国の民主的統治を促進する。」(83条)
国会の役割については、法律の制定、行政の監督等が規定され、国会議員は選挙区の声を国政に反映すると共に、国政の問題を選挙区に報告することが期待されている(84条)。
 国会議員の選挙は、通常4年ごとに8月の第二月曜日に実施される(86条(1)項(a)号)。但し、国会議員の36名以上の賛成で解散決議が可決された場合はこの限りではない(88条(1)項)。また、選挙後18ヵ月間及び任期満了9ヵ月以内の解散は禁止されている(88条(3)項(a)(b)号)。

 第B部-国会役員、委員会、開会及び業務(90条~104条)、第C部-国会の立法権(105条~111条)では、わが国では国会法で規定されているような議事手続きに関する諸規定がおかれている。

(10)第10章-国の行政部(The National Executive)
 本章は、第A部-国の行政部の諸原則と構造(112条・113条)、第B部-首相(114条~116条)、第C部-大臣(117条・118条)から成る。
 行政権の諸原則では、「(1)行政権はフィジー国民に由来し、(a)憲法及び国会制定法に基づいて行使されなければならず、かつ、(b)国の公職は国民から信託されたものであり、支配する権力というよりも奉仕する責任を賦与されたものである、という原則に従わなければならない。」(112条)と規定される。
 内閣は、首相及び14人以内のその他の大臣で組織され、うち1名が副首相となる(113条(1)項)。首相は政府首長であり、閣議を主宰する(114条(1)項)。首相は大臣を任免し、大臣のうち1名を副大臣に任命する(114条(3)項(a)(b))。首相は、国会議員の中から国会議員による選挙で36名以上の支持を得た者が選ばれる(115条(1)(2)項)。首相の任期は国会議員の任期と同じで、通算8年を超えて首相を務めることはできない(115条(3)(4)項)。国会は首相不信任案を提出できるが、その場合は同時に次の首相候補者を国会議員の中から提案しなければならない(116条(1)項)。国会議員の36名以上の賛成で首相不信任案が可決されたとき、首相は直ちに失職する(116条(3)(4)項(a))。

 大臣の任命に当たっては、首相は、全体として、フィジーにおける民族、文化、性別の多様性を反映するよう心がけなければならない(117条(1)項)。大臣は、国会の内外から選ぶことができるが、国会に議席を有しない大臣は国会議員の被選挙権を有する者でなければならず、その数は4名以内に限られる(117条(2)項(a)(b)号)。首相は、任意に大臣及び副首相を任免できる(117条(5)項)。

(11)第11章-司法及び法の支配(Justice and Rule of Law)
 本章は、第A部-司法の諸原則(Principles of Justice)(119条・120条)、第B部-裁判所(The Courts)(121条~127条)、第C部-裁判官(Judges)(128条~134条)及び第D部-独立司法制度(Independent Justice Institutions)(135条~139条)の4部から成る。
 司法の諸原則(A部)では、法の下の司法として、法の支配は権限を与えられた国の公職者及び国家機関がその権限を恣意的または衝動的に行使してはならないことを保障するものであること、および法の支配の下で法律が平等・公正に適用されなければならない等の諸原則が定められている(119条)。裁判所の憲法実施権限では、すべての人が法令の憲法違反を理由に訴訟を提起する権利が認められている(120条)。
 裁判所(B部)では、「共和国の司法権はこの憲法によって設置された裁判所と審判所に与えられ」(121条(1)項)、「裁判所、裁判官及びその他の司法職員は独立して憲法と法律のみに従い、懸念、偏愛または偏見なくそれを適用しなければならない」(121条(2)項)として司法権及び裁判官の独立を定める。司法制度としては、最高裁判所(the Supreme Court)、控訴裁判所(the Court of Appeal)、高等裁判所(the High Court)、簡易裁判所(the Magistrates Courts)及び軍事裁判所(Military Courts)が設置される(122条)。そして、各裁判所の構成・権能等について、規定されている(123条~127条)。
 裁判官(C部)では、裁判官の独立として、裁判官の身分保障が定められ(128条)、その他に裁判官の任命(129条)、任命の基準及び資格(130条・131条)、職務宣誓(132条)、裁判官の任期(133条)、裁判官及び司法職員の免職原因(134条)の規定が続く。

 独立司法制度(D部)では、司法業務委員会(Judicial Service Commission)(135条)、法曹(the legal profession)(136条)、法務次官(Solicitor General)(137条)、公訴局長(Director of Public Prosecutions)(138条)及び恩赦委員会(Mercy Commission)が憲法第13章に定める独立委員会としておかれることが定められ、その構成と権限が規定されている。

(12)第12章-地方政府(Local Government)
 本章では、地方政府のシステム(140条)、地方政府の構造(141条)、地方政府の責任と説明責任(142条)及び中央政府との協働(143条)の4か条がおかれる。まず、地方政府の重要性について、民主主義は人民と共に始まるとして、住民自ら地元の事柄に参加し、地方政府を通じて地元のコミュニティに住民自らサービスを提供することから民主主義が始まる、との考えが示される(140条(1)項)。そして、各地方の必要に応じて形成される強力な地方政府のシステムが国民統合を強化する(140条(2)項)として、国家的な見地からも地方政府の重要性を強調している。
 次に、地方政府の構造とシステムについては、本章の規定に従って、国会が制定する法律で定めるべきこととされ、立法の際の要件が規定されている(141条)。地方政府の責任と説明責任については、各地方政府がその責任を果たすために十分な自律性をもたねばならず、その地方の住民の要求に対し責任を負はねばならないと定められている(142条(1)項)。

 最後に、中央政府との協働については、「国の政府はすべての地方政府を支援しなければ成らず、かつ地方政府がその責任を遂行するための能力の構築に貢献しなければならない」(143条(1)項)と規定されている。一方、「地方政府は、その与えられた役割、機能及び権限を行使するため、十分かつ合理的に予測されうる財源を与えられなければならない」(143条(2)項)。そして、「中央政府と地方政府は、相互の信頼、善意と建設的な関与をもって相互に協働し、それぞれの役割を遂行するために相互に支援しなければならない」(143条(4)項)とする。

(13)第13章-独立委員会及び独立官職(Independent Commissions and Offices)

 フィジーにおける民主主義を確保し保護するため、国家機関として独立委員会と独立の公職が設置される。独立委員会として、フィジー人権委員会(Fiji Human Right Commission)、倫理及び誠実委員会(Ethics and Integrity Commission)、選挙委員会(Electoral Commission)、司法業務委員会(Judicial Service Commission)、恩赦委員会(Mercy Commission)、憲法上の公職委員会(Constitutional Offices Commission)、給与及び手当委員会(Salaries and Benefits Commission)、公共サービス委員会(Public Services Commission)、警察及び監察業務委員会(Police and Corrections Services Commission)の9委員会、独立の公職として、法務次官(Solicitor General)、公訴局長(Director of Public Prosecutions)、会計検査官(Auditor General)、フィジー準備銀行総裁(Governor of the Reserve Bank of Fiji)、オンブズマン(Ombudsman)、警察長官(Commissioner of Police)、監察長官(Commissioner of Corrections)の7つの独任官職が定められている(144条)。そして、145条から150条で、それぞれの権限、業務、説明責任、任命、任期等が規定されているが、憲法上の公職委員会については、特に151条でその設置、責任、構成等が定められている。

(14)第14章-財政(Public Finance)

 本章では、財政の諸原則(152条)、予算の年次提出(153条)、予算(154条)、予算可決前の支出(155条)、歳入(156条)、借入及び保証(157条)、統合基金(158条)、その他の公的基金(159条)、公的資金及び弁済提供の管理(160条)、給与及び諸手当委員会(161条)、会計検査官(162条)、フィジー準備銀行(163条)の規定がおかれている。

(15)第15章-公共管理(Public Administration)

 本章では、公共業務の諸価値と諸原則(164条)、業務の質(165条)、公務員の任命(166条)、事務次官(Permanent Secretaries)(167条)、公共業務委員会(168条)、公共業務委員会からの訴え(169条)、オンブズマン(170条)、オンブズマンの権限(171条)、オンブズマンによる告訴と調査(172条)の規定がおかれる。

(16)第16章-国家安全保障(National Security)

 国家安全保障の諸原則の条項では、「国家安全保障の制度は、憲法の諸原則に実効性を与えるために設置され、それはとりわけ、フィジー国民が平和と調和のうちに生活し、恐怖から解放され、そして他のすべての諸国民と平和のうちに暮らすことという目的を追求するためである」(173条(1)項)と規定する。国家安全保障の諸制度には、フィジー共和国軍(the Republic of Fiji Military Forces)、フィジー警察(the Fiji Police Services)、フィジー監察(Fiji Corrections Service)が含まれる(174条(1)項)。そして、国家安全保障制度に含まれる諸機関である、国家安全保障評議会(175条)、フィジー共和国軍(176条)、軍司令官(177条)、警察及び監察業務委員会(178条)、警察長官(179条)、監察長官(180条)について個別に規定されている。最後に、緊急事態(States of emergency)として、共和国の安全が脅威にさらされた場合の緊急事態の宣言に関する条項がおかれている。

(17)第17章-憲法の改正(Amendment of the Constitution)

 憲法の改正を定めた本章の冒頭に、「憲法上の諸原則、諸価値、及び選挙制度の保護」(182条)の見出しの下、この憲法の中の一定の条項は改正対象とできないとする改正禁止条項がおかれている。その対象とされているのは、第1章の第1条・第2条・第3条・第6条または第9条、第3章の第18条から51条、などである。憲法改正手続については、183条で詳細に定められている。

(18)第18章-解釈及び発効(Interpretation and Commencement)

 憲法解釈の諸原則では、「この憲法を解釈し適用するものは、この憲法の精神、趣旨及び目的、並びに人間の尊厳、平等及び自由に基づく開かれた民主主義社会の基礎にある諸価値を推進しなければならない」(184条(1)項)等の解釈原則が掲げられ、定義(185条)では憲法上の「成人」・「未成年」・「市民社会」・「腐敗行為」・刑事手続」等の28の文言に関する定義規定がおかれる。憲法理解のための指針(186条)では、「この憲法の各条項は、法は常に語っているという解釈原則に従って解釈されるべきである」(186条(1)項)との原則の下に、解釈方法が13項にわたり詳細に規定されている。経過規定、取消及び重要な修正(187条)、発効及び表題(188条)では、この憲法の発効手続やそれにともなう現行法の効力について定められ、この憲法を「2013年フィジー共和国憲法」(The Constitution of the Republic of Fiji, 2013)と呼ぶと規定されている。

3.結びに代えて

 以上、フィジー憲法委員会作成の2013年憲法草案について概観した。そのなかで、2009年4月に破棄された1997年憲法と比較して特徴的な規定を指摘して結びに代えたい。
 ①フィジー国民は一つに統合された多文化国民であると宣言し、国民主権の規定が新たにおかれた。
 ②憲法の最高法規性を宣言するとともに、すべての国民に憲法の尊重擁護義務があると規定された。
 ③持続的な民主主義を確立しクーデタ文化(the culture of coups)を根絶するため、憲法手続によらないいかなる政府樹立の試みも違法かつ無効であると規定された。
 ④自然資源に関する章が新設され、特に土地の保有権と利用に関する詳細な条項が導入された。
 ⑤権利章典に情報へのアクセス権、環境権などの「新しい人権」に関する規定が導入された。
 ⑥人権規定の中で、障害者、女性・男性・家族、高齢者、文化的・宗教的・言語的コミュニティに関する特別規定が導入された。
 ⑦市民社会と政党に関する規定が導入された。
 ⑧公職者の倫理に関する諸規定が導入された。
 ⑨民族別選挙制及び民族別議席が廃止され、民族によらない単一の共通選挙人名簿による投票に変更された。
 ⑩国会が二院制から一院制に変更された。
 ⑪選挙制度が、小選挙区優先順位つき選択投票制(AV制)から大選挙区比例代表制に変更された。
 ⑫全国国民会議(The National People’s Assembly)が新設された。
 ⑬大統領が、大酋長会議による任命から、全国国民会議と全国会議員が集会する合同会議での選出に変更された。

 以上、特に注目される特徴である。さらに憲法条項およびこの憲法の施行によってもたらされる政治的・経済的・社会的効果の分析・考察が必要であるが、今後、憲法議会によって正式な改正草案が確定した時点で、稿を改めて検討したい。なお、この憲法草案の中で、2014年9月30日までに国会議員選挙が実施され、その6ヵ月以前に選挙の告示が行われることが定められている(スケジュール6・第3条(2)(3)項)。

参考文献

・Republic of Fiji Constitution Commission, Draft for Proposed CONSTITUTION OF FIJI, 2013, Presented to His Excellency Ratu Epeli Nailatikau, President of Fiji, in December 2012, in accordance with the Fiji Constitutional Process (Constitution Commission) Decree 57 of 2012.


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