ソロモン諸島の今 -現場からの帰国報告-
はじめに
結論から言うと、まず表面的には順調に復興が進んでいます。詳しくみれば様々な問題が山積みとなっていて、どこかの段階で崩れる可能性はまだ残っているとは思いますが、それでもイラクやアフガニスタンと違い、抵抗運動やテロが起きることもなく、住民たちもおしなべて前向きな気持ちでいると感じられ、これまでのところは、まずは順調に復興が進んでいるといっていい。
1.ソロモン諸島の特徴
そして最後に、ソロモン諸島では独立以来、政権は常に不安定であるということも指摘しておきたい。ソロモン諸島は議院内閣制で国会議員は50人ですが、政党が未成熟で政権基盤は常に脆弱です。与党サイドで閣僚ポストを得られなかった議員が野党に寝返って政権をひっくり返すというのは日常茶飯で、この国の政治リーダーは常に保身のために汲汲としなければなりません。したがって「良い政策」よりも「与党議員の懐柔」を優先せざるを得ず、4年間の任期を見据えて強いリーダーシップをソロモン人政治指導者が自ら発揮することは非常に難しい。ちなみに来年3月頃、4年に1度の総選挙が行われる予定ですが、現職のケマケザ首相がそこまで政権を維持すると、これは建国以来初めて4年任期を全うする首相になります。
2.紛争とRAMSIの展開
さて、オーストラリアを中心にした軍隊と警察が大量に展開したことで、それまで荒れていたホニアラ市内とガダルカナル島の治安は劇的に好転しました。そして崩壊した国家機能を回復させるべく、治安維持部隊と同時に行政アドバイザーも大量に派遣されました。オーストラリアが特に重視したのは、財政再建を核としたガバナンスの強化です。彼らは名目上はアドバイザーですが、私がこの1年間見ている限りでは、実態はアドバイザーというよりも実務の主導的役割を担っている感じがします。
3.復興の現状
RAMSI展開と軌を一にして、2003年秋に国家復興計画、通称ヌーデップ(NERRDP:National Economic Recovery, Reform and Development Plan 2003-2006)という復興計画が発表され、これに基づき現在ソロモン諸島は復興事業が進んでいます。重点を置いているのは、①法の秩序と回復、②民主主義、人権擁護とガバナンスの強化、③財政安定化と公共セクター改革、④生産部門活性化と社会基盤整備、⑤社会サービスの回復と開発、の5つの分野をKSA(Key Strategy Area)として掲げています。そこで、これらの課題に現在どこまで取り組みが進んでいるか、ひとつずつみていくことにします。
ということで、治安面について結論を言えば、基本的にはRAMSI警察がピシッと抑えて治安は十分維持されている、それに対する組織的な抵抗も起きていません。生活していても、特に普通の街以上に特別な神経を使う必要はないというのが現状です。
さて、順序が入れ替わりますが、次にお話ししたいのが「生産部門の活性化と社会基盤整備」です。ソロモン諸島政府は、去年の段階で治安回復に目処がついたとして、今年の中心課題としてこれを掲げています。平和の定着には、どん底に落ち込んだ経済を回復させて、みんなに働き口を確保しなければならないということですね。これに関しては、ゆっくりとですが、とりあえず前進しています。
新しい産業といえばかなり大きな話ですけれども、新しい鉱山開発の話が進んでいます。CBSIによると、具体的にはイザベル州とチョイセル州で、住友鉱山が調査許可を得たとのことです。もしこの話が本当にこの先進んでいくと、総額数百億円規模の投資になるでしょうから、地域社会の根本を変えてしまうほどの話にもなると思います。実際のところ土地問題をはじめ様々な難関が予想されるので、果たしてこれが現実化するかどうかは正直なところわかりませんが。
そして、これとは別に日本のNGOでAPSD(Asia Pacific Sustainable Development)という団体がマライタに大きな試験農場を作っていて、そこで有機農法による稲作プロジェクトを進めています。間もなくマライタの全地区から研修生を集めて、稲作および有機農法の研修開始する予定です。なかなかお金がなくて苦労しているようですが、結構日本のNGOは頑張っています。
ところで、地方住民にとっての大きな関心事であり、いつも要望として出てくることに、島と島の間の輸送問題があります。田舎の方でコプラを作りました、ココアを作りました、といってもそれを運ぶ術がありません。2004年11月のドナー会合でも地方の代表者や経済界から次々と島と島の輸送を何とかしたい、してほしいとの声があがっていましたが、こうした不満が、地方住民と開発問題で話をすると必ず出てきます。そしてこれに対してはEUが7つほど小さな埠頭をつくるプロジェクトを進めていますが、全般的な状況はまだまだ改善されていません。そんな中で、8月からADBが島嶼間輸送ネットワークを含む運輸部門全体のマスタープラン作りを支援すると発表しました。まあこの国では計画ができても実行されず絵に描いた餅に終わることが多々起きるので、どこまで実効性があるか疑問はありますが、とりあえず来年4月頃までには素案をまとめて、島嶼間輸送の方向性を打ち出すことになりましたので、それを受けてこの問題に対するドナーサイドの関心も高まるかもしれません。ちなみに日本はすでに2003年のドナー会合で「要請があれば支援をする用意はある」と表明しましたが、ソロモン側から具体的な要請があがらず話は進んでいません。
マクロ経済指標もそんなわけで、去年(2004年)の経済成長率は5.4%となり、2年連続5%を超えました。表面的には経済好調で、ソロモン政府もさかんにこの点を強調しています。ただこれには数字のからくりがあって、1999年、2000年からずっとマイナス成長が続いていましたから、結局下がった分を取り戻しているだけの話で、別に昔よりも良くなっているわけではありません。経済の規模が昔と同じになっても人口は増え続けていますから、それだけまた生活レベルは下がっているわけで、これから先、数年が本当の勝負だと思います。
もうひとつ、公共セクター改革の目玉にあがっているのが国営企業の改革です。これを強く推進しているのは世銀とオーストラリアで、彼らの強い意向を受けて、国営企業の一部を売却・民営化しようとしています。売却・民営化の対象になっているのはソロモン航空、政府印刷局、それから船舶修理工場などです。また公共性の高い国営企業は、売却・民営化ではなく、外国の民間企業に経営委託をしようという動きが進んでいて、その中には電力公社や水道公社が含まれています。
もうひとつ、私が住んでいて感じたのは、たとえばちょっとお腹が調子悪くなって医者へ行っても、キチンとした検査ができないことです。私事で恐縮ですが、うちの妻がこの間ちょっと病気になって医者に診てもらったところ、「念のため子宮ガンの検査もしよう」と言われたんですね。で、検査を受けて、それが2月の話ですが、「じゃ結果は5月に出るから」と言われまして(笑)。本当にガンだったらその間に進行してしまうじゃないかと思いましたが、そういうレベルで彼らは暮らしています。
ひとつこの関連でお話ししなければならないのは、憲法改正問題です。憲法改正、正確には新憲法策定は、紛争解決時にこれからの国家のあり方として州を単位とした地方分権への流れが合意され、首相が約束し、国家計画の中でも言及されました。ところが現実には動きは鈍く、確かに草案はできはしたのですが、今のところ議論も低調です。来年早々には選挙ですから、少なくとも現政権下では「積み残し」になるのは確実な情勢で、その先は次の政権次第、場合によってはそのままウヤムヤに葬られてしまうということもあると思っています。
4.今後の課題
冒頭で私は、「表面的には順調に復興は進んでいる」と申し上げました。この流れを確実にするためには、恐らく今後2~3年が勝負なのではないかと私は思います。RAMSIは当分継続するとされ、具体的に撤退時期は示されていませんが、いずれは退場する豪州率いるRAMSIの駐留が長引けば長引くほど、依存性が高まるとともに反発も広がります。できるだけ早くRAMSI撤退の「出口プラン」の検討を始められるよう、ソロモン諸島政府のなおいっそうの奮闘と各ドナーの支援が必要なのではないかと考えています。