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143-<パラオ短信>レメンゲソウ大統領 外国漁船による商業漁業禁止へ強い決意

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<パラオ短信>

レメンゲソウ大統領
外国漁船による商業漁業禁止へ強い決意

上原伸一(うえはら しんいち)


 トミー・レメンゲソウ大統領の3期目も1年が過ぎた。議会の多数が親大統領派のため、2014年度予算が9月10日には成立し、1年間で19の法律が制定された。しかし、閣僚任命の承認権を有する上院の親大統領派は13名中の8名で、3分の2に満たないため、閣僚人事は難航した。
以下、昨年後半以降の主な話題を中心にパラオ動向を、簡単に紹介する。

(1)官房長官の交代等
 レメンゲソウ大統領は、7月8日、財務大臣エルブエル・サダン氏が兼任していた官房長官にセシール・エルデベエル氏を任命した。エルデベエル氏は、レメンゲソウ大統領が財務大臣に任命しようと4度に亘り議会の承認を求めたが承認されず、官房長官だったサダン氏を財務長官兼任にして議会承認を得ていた。エルデベエル氏を議会の承認が不要な官房長官にして、周りを固めたものと考えられる。サダン氏の財務大臣はそのまま。本誌前号で、自由連合協定交渉担当のビリー・クワルティ氏が財務大臣兼任となったと書いたが誤りで、クワルティ氏は自由連合国協定交渉担当兼国務大臣となっている。ちなみに、大臣の一覧表では正しく記載してある。訂正してお詫びいたします。

 なお、教育大臣については未だに空席のままである。

(2)外国漁船による商業漁業禁止
 今年2月5日、国連のスピーチで、レメンゲソウ大統領は、パラオの排他的経済水域では外国人による商業漁業を禁止する旨宣言した。日本、台湾その他の私企業との現在の契約が切れた後は、新たなライセンスを出さないことにより実現させる。このやり方であれば、新たな法律を作ることなく自らの権限で外国企業による商業漁業を排除出来る。パラオ居住者及び観光客による漁業・釣りは今まで通り認められる。

 パラオ近海において、魚の数が減ると共に、個体も小さくなっており、「100%マリーン・サンクチュアリ」を実現して手付かずの自然を守るとしている。これにより、より多くのシュノーケラーやダイバーがパラオを訪れるようになり、パラオは付加価値のある観光産業を展開することが出来、漁業ライセンス料のマイナスは充分補えるというのがレメンゲソウ大統領の考えである。

(3)台風ハイヤンによる被害
 昨年フィリピンに莫大な被害をもたらした台風ハイヤンが、11月6日から7日にかけてパラオ北部を通過した。カヤンゲルは実質的に全滅といえる状態で、バベルダオブ本島最北端のアルコロン州でも大きな被害が出た。このため、10日間の国家非常事態が宣言された。
 カヤンゲルは椰子の木が全滅、家屋も殆どが倒壊した。小学校も完全に屋根が抜けて使用不能な状態。パラオでも最も美しい島は全くその面影がなくなってしまった。島民は、州政府の建物に避難し、全員無事で、幸いなことに人的被害はなかった。台風が去った後、全島民69人がコロールに避難した。
 台湾赤十字は60のプレハブの家を寄付したが、パラオ全体では433の家屋が被害を受けており、パラオ側はさらに40を要望している。日本政府は、10月22日に200万円分の緊急援助物資を供与、その後約50万ドルの復興資金援助を決めた。

 在日パラオ大使館では1月31日まで義援金を受け付けていた。昨年末で3700万円強が寄せられている。

(4)観光客減少
 前号で観光客の減少傾向を報告したが、減少は止まらず、2013年は105,066人で、前年比11.5%の減少となっている。1月-5月での前年比は5%強の減少であり、減少幅は大きくなっている。年間観光客10万人超は維持できたが、2011年のレベル(109,057人)にも達しなかった。
 観光客の1,2位を占めてきた日本と台湾からの観光客が両方とも減少している。台湾は前年比で33.9%と大幅に減少。日本も9.4%と落ち込みを見せた。日本からの観光客が前年比10%以上減少したのは、2008年9月のリーマンショックの影響を受けた2009年の11.1%減少のみである。アベノミクスで景気回復が言われる中、日本としては大きな減少となった。ボーイング787型機の運航停止の影響で4月から7月上旬までJALのチャーター便が飛ばなかった影響が大きいと言われている。
 しかし、昨年のJALチャーターの便数は37便で、2012年の47便に比べ10便の減少であった。10便すべてが満席になっても、2300人前後である。昨年の観光客数の減少は3,891人であり、日本からの観光客減は、必ずしもJALチャーター便数の問題だけではない様にも思われる。

 また、2004年から急速に増加して、2006年からは日本、台湾に次いで3位を占めている韓国も11月までで11.1%減少している。一方で、中国本土からの観光客は倍増している。

(5)その他

○ 日本人夫婦の自殺:10月21日に日本人夫婦が自殺しているのが発見された。男性は日本の建築コンサルタント会社の社員で、日本の援助で建設中の火力発電所の施工監理のため、昨年2月から家族でパラオに赴任していた。1歳の女児がいたが、その子は無事であった。JICAからの派遣ではなく、個別の会社契約による派遣であったため仲間がおらず孤独だったのではないかと言われている。現地在住の日本人に大変大きな衝撃を与えた事件であった。

○ 最低賃金引き上げ:10月1日から最低賃金が1時間あたり2.75ドルに引き上げられた。3.5ドルになるまで、今後毎年25セントずつ引き上げられる。この最低賃金は、パラオ人、外国人を問わず適用されるが、10月1日以前に外国人労働者と交わされた契約には適用されない。公務員については、やはり10月1日から、2週間あたり25ドルの給与引き上げが行われた。

○ 外国人の国外送金課税:前号で紹介した、外国人の国外送金に送金額の4%を課税する法律は、当初10月1日実施の予定であったが、11月1日に延期の上実施された。この税収は、パラオ国民の年金サービスに充てられる。

○ 落ち着かない治安:8月12日に、脱獄したパラオ人2名がペントハウスホテルの部屋に入り込み、中にいた日本人観光客に怪我を負わせ金を強奪した。被害者はパラオ政府から公式な謝罪を受けた。この人は、1988年から70回以上パラオを訪れているダイバーで、これに懲りずに今後もパラオ訪問の意向とのこと。
 11月2日には30代のパラオ人女性が、かつてのボーイフレンドにナイフで刺され重傷を負う事件が起きている。

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