巻頭言
新生太平洋協会のスタート
JAIPASは組織内研究部として継続
4月1日、本組織は一般社団法人太平洋協会(Japan Pacific Islands Association)へと名称を変更、新たな組織体制の下にスタートを切った。これまで親しんだJAIPASという略称は、組織内の研究部名(太平洋諸島研究所)として、従来通り使用される。
この組織は、1974年に社団法人日本ミクロネシア協会としてスタートした。当時のミクロネシア、すなわち旧日本統治領だった島々は、米国施政の信託統治領で、近い将来の独立・自治を目指して、それまで閉ざしていた外との関係、とりわけ日本との経済関係を築くために解放に向けて動き始めた時期だった。戦後約30年を経過していたが、日本の側にもまだ旧南洋群島関係者や太平洋戦争の将兵としてこの地域を体験した方々が多数残っていた時代だ。それゆえ、ミクロネシア側からのアプローチに経済界にも関心を寄せる声は大きく、これらの声を集結させて出来たのが日本ミクロネシア協会だったのである。だから、まず取り組むべき仕事は、数十年間の情報空白を埋めるために島々の現状を調査研究して国内に伝えること、そして島々と日本の親善交流を進めることだった。
その後に、この地域は三つの自由連合国と一つの米自治領に分かれて信託統治を終了させた。その三つとは、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国である。サイパンやテニアンが属するマリアナ諸島は、米領北マリアナ諸島となった。ミクロネシア3国が独立国となって、太平洋島嶼諸国の仲間入りを果たしたことで、協会を管轄する主務官庁の部署も外務省の北米第一課から大洋州課へと移った。その結果、協会の守備範囲がポリネシアやメラネシアにも拡大して、活動対象となる島嶼国数は一気に10を超えた。そうなると、「ミクロネシア」を冠する組織名がそぐわない。そこで1999年、太平洋地域全体を視野に入れた組織名になるように、太平洋諸島地域研究所へと名称変更したのである。
名称が「研究所」となっても、研究事業だけに特化する組織になったわけではなく、従来通りに民間レベルの親善交流や島嶼地域に関する諸情報の発信事業も重要な活動であることに変わりなかった。法人や個人が会員として組織を支えるという組織構造に変化がなかったことを思えば、当然の成り行きだったろう。
ところが21世紀に入るころ、国際社会の太平洋島嶼諸国を見る目に変化が起こった。それまで、外交対象としてさほど重視してこなかった米、豪はもちろん、EUまでもが、島嶼諸国に関心を示すようになったのである。その直接的原因は、中国の急激な太平洋進出によって、新たな島嶼国と中国の関係が出現してきたからである。これにより日本もまた、従来に増して島嶼諸国との関係を強めて行かねばならなくなった。
というのも、日本政府は独自の政策展開として、1997年に島嶼諸国の首脳すべてを日本に招いた会議「太平洋・島サミット」を開催し、他国に先駆けて対島嶼国関係を重視する姿勢を打ち出していた。なのに、その直後から島嶼諸国への国際的関心が急騰したために、せっかくの島嶼国重視のアピールがこのままでは周辺大国の外交攻勢の中に埋没しかねない状況になってしまったのだ。そこで政府は、2000年に2回目の太平洋・島サミットを実施、その後は3年ごとに計6回の会議を重ねながら対島嶼国関係の強化に努めてきたのである。
このように、太平洋が外交的に重要視されはじめると、これまで積み上げてきた交流実績や研究蓄積を利用したいとする需要も増大し、同時にこれからの私たちの活動に対する期待感も高まってきた。このことは、常々この地域の政治的重要性を訴え続けてきた本組織にとっては大いに喜ばしいと言えるだろう。しかしながら、日本における島嶼国研究といった観点から見れば、かなりの肌寒さを感じずにおれない。中国は一昨年、島嶼研究を専らとする30人規模の太平洋研究所を中山大学と北京大学のそれぞれに設置したというのに、太平洋に面する経済規模世界第三位の日本にある島嶼地域特化の研究機関が、私たちの組織だけというのだから。
研究活動にしろ交流事業にしろ、これからさらに需要が拡大するとすれば、今のままの組織力ではいささか心許ない。そこで、公益法人の制度改革法が施行されたこの機会を捉え、組織体制の強化を図り、さらなる活動の充実に取り組むこととした。名称を「太平洋協会」と改称したのはその改革の一環で、できるだけ沢山の方々を巻き込んだ活動によって、日本と島嶼国との友好関係を発展させたいとの思いからである。
島嶼諸国は、その小ささゆえに日本の経済パートナーにはなりにくく、よってODA事業など政府レベルの関係が主力になっていた。通常の国家間関係においては、このような政治や政府行為の先行が不可欠なのは言うまでもない。しかし、それら政府事業の後に民間の経済活動や人的交流が続いてこそ、良好な国家間関係の絆が太く安定的に根付いていく。これらの実現に向けた諸事業の展開こそが、本組織が推進していくべき仕事であろう。だがそれは、同志、賛同者、島嶼愛好者ら沢山の方々の力を集結させてこそ実現するものである。それゆえ、新生太平洋協会の活動にご期待いただくと同時に、目的遂行のため、どうか皆様方の多くに仲間に加わっていただけるよう、お願いしたい。
(小 林 泉)