<パラオ選挙報告>
トミー・レメンゲソウ・Jr. - パラオ初の大統領3選
総選挙報告と2012年のパラオ
上原 伸一
筆者は、9月の予備選挙直前に現地取材を行った。その様子を含めて、選挙結果並びに昨年のパラオの状況について報告する。
<Ⅰ> 選挙報告
副大統領選には、トリビヨン氏とチームを組んで立候補した現職のケライ・マリウル氏の他に、スティーブン・クワルティ厚生大臣(当時)、ジャクソン・ギライガス経済産業大臣(当時)、アントニオ・ベルス元下院議長の4人が立候補した。
副大統領選では、事前の調査や評判では、クワルティ氏、ベル氏、マリウル氏が優位と見られ、ギライガス氏は出遅れていた。予備選直前の9月3日早朝2人の若者が 2人の若者を襲い、 1人が死亡、 1人が重傷を負った。死亡したのは、副大統領候補のアントニー・ベル氏の息子で、犯人の1人はトリビヨン氏の側近のシート・アンドレス氏の息子であった。ベル氏の息子の葬儀は9月21日で、予備選直前の悲劇でベル氏は選挙運動どころではなくなってしまった。同情票が集まるのか、選挙運動不足が響くのか、副大統領予備選の大きな注目点となった。
当時の現職の正副大統領にとってはまさに大逆風の中での予備選挙となったが、やはり現職は強いので正副大統領とも現職は予備選挙を通るであろうと反トリビヨン派の人々も考えていた。大統領選では、トリビヨン氏とレメンゲソウ氏がほぼ40%ずつで、ピエラントッチ氏は20%程度というあたりが大方の予想であった。
登録投票者数:15,005、投票者数:9,493(内国外票含む不在票1,547票、投票率63.26%)
大統領候補:
トーマス・レメンゲソウ・Jr. 4,618票(48.6%)
ジャンセン・トリビヨン 3,100票(32.6%)
サンドラ・ピエラントッチ 1,690票 (17.8%)
副大統領候補:
ケライ・マリウル 2,963票(31.2%)
アントニー・ベル 2,851票 (29.7%)
スティーブン・クワルティ 2,556票(26.9%)
ジャクソン・ギライガス 968票 (10.2%)
大統領選では、予想通り当時現職のトリビヨン氏は予備選を通過した。ただ、事前の大半の予想よりは、レメンゲソウ氏との票差が開いた。海外票を中心とした不在者票が開くまでは、レメンゲソウ氏3,792票、トリビヨン氏2,622条、ピエラントッチ氏1,460票であった。通常海外票では、投票者への浸透度・有名度等により現職大統領が有利である。しかし、レメンゲソウ氏は副大統領2期8年、大統領2期8年勤めており、海外在住者にもその名前は知れ渡っている。結果として、トリビヨン氏は海外票で差を詰めるどころか逆に差を広げられてしまった。
副大統領選では、現職であったマリウル氏に続いて、ベル氏が予選を通過した。国内票では、ベル氏が100票リードしていたが、海外票でマリウル氏が逆転して予選を1位で通過した。
本選挙は、 11月6日に行われた。トリビヨン氏は大統領令で選挙日を休日とした。しかし、投票率は68.9%と上がらず、総選挙としては過去に比べて低い数字となった。結果としては、レメンゲソウ氏が差を広げ、大差で当選した。ピエラントッチ氏の支持者の票は必ずしもトリビヨン氏に流れなかった。
副大統領選では、ベル氏が、トリビヨン氏とチームを組んだ現職のマリウル副大統領に逆転勝利した。予備選では、海外票でマリウル氏に約200票差をつけられたベル氏であったが、本選では逆に海外票で100票強リードし、逆転を果たした。とはいえ、ベル氏の得票率は 50.0%弱であり、ギリギリの当選であった(*13)。
トーマス・レメンゲソウ・Jr. 6,140票(57.9%)
ジャンセン・トリビヨン 4,287票(40.4%)
副大統領候補:
アントニー・ベル 5,303票(50.0%)
ケライ・マリウル 4,847票 (45.7%)
(2)国会議員選挙
上院・下院の国会議員選挙は11月6日正副大統領の選挙と同日に行われた。前回のスランゲル・ウィップス・Jr.氏のライトインでの上院選挙1位当選の影響か、今回は相当な数の人がライトインで当選を目指したが、当選を果たしたのは、下院ソンソル州のユタカ・ギボンズ・Jr.氏だけであった。彼は、南部大酋長アイバドルの息子で高校の教師である。前回ライトインで当選した現職に、今回は彼がライトインで挑戦して当選を果たした。
下院は各州1人計16人から構成されている。今回選挙では、オギワル州を除く15州で現職が立候補したが、 7人が落選し、定員16人の内半分の8人が入れ替わった。上院に比べると下院は、それほど現職が強くない傾向にはあるが、半数の入れ替わりは珍しい(*14)。
(1)2012年の概観
一方で、 7月にはパラオが誇るロックアイランドがユネスコの世界遺産に登録された。観光客は2011年に初めて10万人を超えたが、2012年はさらに9%弱増加し、11万8,754人を記録した。これについて、トリビヨン氏は、自分の大統領任期中に観光客は10万人を超えさらに増加をしている事実を実績の1つに挙げていたが、反トリビヨン陣営の人たちの間では、 10万人は現在のパラオのインフラやホテル等の施設からみて受け入れの限界に近い(或いは限界を超えている)との意見が強い。実際、天気が良い日だと、ロックアイランドの上陸が許されている島は観光客で一杯であり、のどかで美しい「海の楽園」は時としてラッシュ状態になっている。
こうした難問に対し、レメンゲソウ新大統領は、既にタスクフォースの立ち上げを含む対応に乗り出しているが、問題は巾広くそして根深いものになってきており、早急な解決は必ずしも望めない。レメンゲソウ氏の今回の圧勝は、彼の人気によるというより、トリビヨン氏の不人気によるところが多かったと言っても過言ではない。それは、パラオが厳しい現実に直面していることを意味してもいる。1994年の独立の際、レメンゲソウ氏は副大統領だった。独立20周年は3期目の大統領として迎える。将来に向けて大きな曲がり角にあるパラオを、彼はどの方向に向け、どのように将来への道筋をつけ、その礎を築くのか。現状では全く見えていない経済自立への道を付けることができるのか。今後のパラオにとって重要な4年間になろう。
<上院選挙結果>☆当選、*は選挙時現職
☆Camsek E Chin 6,916
☆Raynold R Oilouch 6,640
☆Mason Whipps 6,121
☆Phillip Reklai 5,382
☆Mark U Rudimch 5,336
☆Hokkons Baules 5,195
☆J Uduch Sengebau Senior 4,391
☆Mlib Tmetuchel 4,332
☆Rukebai Inabo 4,189
☆Kathy Kesolei 4,163
☆Regis Akitaya 3,956
☆Joel Toribiong 3,756
Greg Ngirmang 3,715
Alan Seid 3,701
Earnest Ongidobel 3,654
John Skebong 3,533
Regina K Mesebeluu 3,477
Salvador Remoket 3,468
Laurentino Ulechong 3,404
Alan Marbou 3,275
Alfonso Diaz 2,870
Paul W Ueki 2,827
Sandra Sumang_Pierantozzi(Wright-in) 2,785
Dr Caleb Otto 2,582
Roman Yano 2,130
Dilmei Olkeriil 1,996
Santy Asanuma 1,956
Moses Uludong 1,696
J Risong Tarkong 1,682
Gale Ngirmidol 1,250
Robert Becheserrak 616
Semdiu Decherong(Wright-in) 525
Ismael Worswick (Wright-in) 265
<下院議員> 各州1人。☆が当選。*は立候補時の現職。
1.コロール選挙区 (Koror State)
☆Alexander Merep * 1,382
Salvador Tellames 753
Felix Francisco 800
2.アイライ選挙区 (Airai State)
Tmewang Rengulbai * 448
☆Frank Kiyota 463
3.ガラルド選挙区 (Ngaraard State)
☆Gibson Kanai * 391
Priscilla Subris 154
Martin Sokau 250
4.アルモノグイ選挙区 (Ngeremlengui State)
☆Swenny M. Ongidobel * 216
Portia K. Franz 199
5.エサール選挙区 (Ngchesar State)
Secilil Eldebechel * 187
☆ Sabino Anastacio 224
6.カヤンゲル選挙区 (Kayangel State)
☆ Noah Kernesong * 169
Edwin Chokoi 126
Florencio Yamada 39
7.アルコロン選挙区 (Ngarchelong State)
☆ Marhence Madrangchar * 314
Masao salvador 254
Don Bukurou 95
8.オギワル選挙区 (Ngiwal State)
Eugene Usin Termeteet 140
Francis X.Llecholch 95
☆Masasinge Arurang 178
Pablo Rrull 73
9.マルキョク選挙区 (Melekeok State)
☆Lencer P. Basilius * 278
Brian Malairei 150
10.アイメリーキ選挙区 (Aemeliik State)
Kalistus Ngirlurong * 236
☆Marino O. Ngemaes 340
11.ガラスマオ選挙区 (Ngardmau State)
Rebluu Kesolei * 129
☆Lucio Ngiraiwet 145
12.ガスパン選挙区 (Ngatpang State)
Jerry Nabeyama * 114
☆ Lee Otbed 122
13.ペリリュー選挙区 (Peleliu State)
☆Jonathan “Cio” Isechal* 206
Joseph Giramur 168
Charles Desengei Matsutaro164
14.アンガウル選挙区 (Angaur State)
Horace N. Rafael * 134
☆Mario Gulibert 158
15.ソンソル選挙区 (Sonsorol State)
Celestine Yangirmau * 76
☆Yutaka Gibbons Jr.(Write-in)93
16.トビ選挙区 (Hatohobei State)
Wayne Andrew * 48
☆ Sebastian R. Marino 50
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<トミー・レメンゲソウ・Jr.大統領略歴>
1956年2月28日、コロール生まれ。ミシガン州立グランドバレー大学で犯罪学 の学位を得る。その後、ミシガン州立大学で政治学の修士課程を収める。
1984年、 28歳で最年少の上院議員。 1985年~1992年上院議員
1992年、 36歳で最年少の副大統領。 1993年~2000年副大統領。
2000年、 44歳で最年少の大統領。 2000年~2008年大統領。
2008年~2012年上院議員。
2013年、パラオで初めて3期目の大統領に就任。
<アントニー・ベルス副大統領>
1948年7月 6日生まれ、ガラルド州出身。モンタナ大学で経済の学位を取得。
パラオ高校教師、コロール州マネージャー、年金管理官などを務める。
1996年、ガラルド州下院議員に選出。 2008年まで3期(第5期~第7期)連続 で務める。第6期及び第7期は下院議長。
2013年、副大統領就任。
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イト制での正副大統領選挙は、 2008年の1回で終わった。
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