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139-オーストラリアの対フィジー政策の方向性

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オーストラリアの対フィジー政策の方向性:
民主化プロセスへの介入を巡って

大阪学院大学准教授 畝川 憲之 (せがわ のりゆき)
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はじめに

2006年12月、フィジーのバイニマラマ国軍司令官が軍事クーデターを実行し、ガラセ首相を追放した。このクーデター以来現在に至るまで、フィジーではバイニマラマを(暫定)首相とする軍事政権が続いている(*1)。フィジーの軍事政権に対して、オーストラリアをはじめとする国際社会は強い批判を表明し、また早期の選挙の実施(民政復帰)を実現するよう様々な制裁を加えている。ただし、近年、フィジーへの圧力を緩和させる国際的な動きが見られ、またオーストラリアのLowy Instituteはフィジーに対する強硬政策からの転換をオーストラリア政府に提案するレポートを出している。本論では、Lowy Instituteから出された2つのレポート(オーストラリアの対フィジー政策の転換を提案するもの(*2)、フィジー国民に対して実施されたアンケート調査の結果をまとめたもの(*3)を概観し、オーストラリアの対フィジー政策の方向性を考察する。

1、対フィジー政策とその問題点

オーストラリア政府は、フィジーの2006年クーデター以来、バイニマラマによる軍事政権に対して、早期の選挙の実施および民政復帰へ向けて進むよう勧告を行っている。フィジー政府の説得に際し、クーデター当事者や幹部軍人など(*4)の渡豪の制限、そして二国間の武器の禁輸、防衛協定の停止、閣僚レベルの会合停止、外交関係の制限などの制裁措置をとっている(*5)。オーストラリア政府は、こうした対フィジー政策のスタンスを崩すことなく一貫して継続してきた。また、オーストラリアの対フィジー政策のスタンスは、フィジー政府に大きな変化がない限り、変わらないだろうと言われている(*6)。

しかしながら、オーストラリア政府はバイニマラマの説得に失敗し続けているというのが実情である。それどころか、バイニマラマはオーストラリアの外交官や高等弁務官をフィジーから排除しており、オーストラリア政府の民主化要求の活動そのものが困難となっている。フィジーのクンモンバラ外相が「2014年に選挙を実施する。選挙が繰り上げ実施されることはない(*7)」と繰り返し発言するように、2014年までにフィジーが民主化に大きく進むことはないであろうと考えられている。実際、フィジー政府は経済改革に重点を置いており、現在までのところ選挙へ向けての準備はなされてはいない。

オーストラリアだけでなく国際社会からも、選挙の実施および民政復帰を要求する圧力がフィジー政府にかけられているが、それらも効果を示してはいない。選挙を実施していないという理由で、2009年5月には太平洋諸島フォーラム(PIF: Pacific Island Forum)(*8)、9月にはコモンウェルスがフィジーのメンバー資格を停止(*9)したが、フィジー政府の民主化に大きな影響を与えたとは言い難い。さらに、EUは選挙の実施を条件に、製糖業へ約3億USドルの援助を拠出することを提示したものの、フィジー政府はこの申し出を拒絶している(*10)。このように、フィジー政府は、オーストラリアをはじめ国際社会からの民主化要求の圧力に決して屈しない強い姿勢を示している。

オーストラリアの対フィジー政策の失敗は、オーストラリア・フィジーの二国間関係の弱体化だけを意味するわけではない。オーストラリアにとって、この失敗は、南太平洋の大国としての域内での影響力、国際的な評価の低下を招く可能性がある。また、オーストラリアの活発な外交戦略を標榜する“creative middle power diplomacy(*11)やその評価にも少なからず影響を与えるであろう(*12)。

フィジー政府を選挙の実施及び民政復帰へ向かわせるには、当然のことながら諸外国との協働により政治的圧力を強め、フィジーを孤立させることが必要であると考えられている(*13)。実際、諸外国は、クーデター直後においてはオーストラリアの対フィジー政策を支持していた(*14)。しかし、オーストラリアの政策がうまく進んでいるとは言い難い状況の中、その支持はぐらつきを見せ始めており、フィジーの民主化を巡ってのオーストラリアと諸外国との連携は陰りを見せ始めている。

アメリカは、制裁解除は民主化プロセスの前進とともに実施すると示すように、オーストラリアの対フィジー政策のスタンスを支持している。しかし一方で、フィジーの民政復帰へ向けて、バイニマラマ首相との直接交渉に乗り出す準備を進めている(*15)。日本は、圧力ではなく、継続的対話を重視するスタンスを示している(*16)。ニュージーランドも建設的な解決策を練っている(*17)。PIFはフィジー支持を表明しており、メラネシア先鋒グループ(MSG: Melanesian Spearhead Group)は少なくともフィジーに圧力を加えることはないであろう(*18)。また、中国をはじめインドネシア、ブラジル、南アフリカは、フィジーの軍事政権との関係を強めつつある(*19)。

このようにオーストラリアの対フィジー政策をめぐっての諸外国との連携は陰りを見せており、さらには、対フィジー政策のスタンスを巡って、オーストラリア政府が国際社会から孤立する危険性があるとさえ言われている(*20)。それだけでなく、アメリカがバイニマラマとの直接交渉の道を模索している状況において、オーストラリアは、フィジーの民主化要求に関する主導権、南太平洋においての影響力をアメリカに奪われかねない。また、フィジー政府が、オーストラリアとの関係悪化の中、諸外国と新たな協調関係を築き且つ発展させているように、フィジーにおけるオーストラリアの影響力が低下する恐れがある。特に、大量の中国資本がフィジーに流入しており、フィジー政府は、中国との関係性が強まれば、オーストラリアの重要性は低下するとの考えを示している(*21)。

このようにオーストラリアの対フィジー政策の失敗は、オーストラリアの国益を大きく損なう恐れのある問題を生み出している。現在、オーストラリア政府は、フィジーの民主化へ向けての道筋を失い、対フィジー政策において行き詰っていると言えよう。

2、対フィジー政策の転換へ向けて:Lowy Instituteの提案

こうした状況の中、オーストラリアのLowy Instituteは、オーストラリア政府はフィジーとの二国間関係の改善とフィジーの民政復帰を援助する機会の創出へ向けて、対フィジー政策のスタンスを転換させる必要があると提案している。この提案の中で、対フィジー政策のポイントは、早期の選挙実施の要求から、フィジー及び太平洋島嶼地域においてのオーストラリアの長期的な利益、外交関係の保護に移行させていくべきであるとした(*22)。そして、この目的の達成に向けて、フィジーの人々とのつながりや対話を行うチャンネルを維持することが必要不可欠であると示した(*23)。つまり、Lowy Instituteの示すオーストラリアの新たな対フィジー政策のスタンスは、対話を通して二国間関係を改善し、フィジーに憲法起草や選挙改革へ向けての援助を示すというものである。Lowy Instituteは、オーストラリア政府の「フィジーの民主化」という目標はそのまま維持し、その手段を変更することを提案している。また、こうしたオーストラリアの対フィジー政策の方向性の転換は、即時に実行される必要があるとしている(*24)。これは、バイニマラマが2014年の選挙後に首相に就任する、もしくは大統領に任命される可能性が高く、2014年以降の二国間関係の再構築はさらに困難となるだろうことが予測されるからである。

こうした政策スタンスの転換にあたって、Lowy Instituteは、現在の政策を変更する必要性を示した。二国間の定期的な公式会合のない現在の状況下において、オーストラリア政府がフィジーに影響力を行使することは困難である。そこで、オーストラリア外交官とフィジー官僚との定期的な会合を用意するなどし、二国間関係の再構築そして信頼醸成に向けて取り組むことが必要であるとした(*25)。また、渡豪制限に関する制裁の適用範囲を、バイニマラマ、閣僚、軍事評議会、幹部軍人だけに縮小することも提案している(*26)。現在の制裁措置が適用されている閣僚及び幹部軍人の家族の多くは、オーストラリアと深い友好関係にあり、そのため現在の制裁措置は、長期にわたっての二国間の重要な関係を断ち切ることとなる(*27)。また、渡豪に関する制裁範囲の縮小は、バイニマラマがオーストラリア批判を国民に訴える手段の一つを除去することにもつながる。そして、こうした改革を進めるとともに、オーストラリア政府は早期の選挙実施を迫るのではなく、2013年までの新憲法の施行および2014年の選挙の実施というフィジーの主張を受け入れ、そして対話を通して新憲法の起草や新選挙制度の導入へ向けての援助を申し出るべきであるとの方向性を提示した(*28)。

また、こうした対話および援助は、オーストラリアが自ら主導権を握りつつ、いくつかの国と連合を組んで進められるべきであると提案している(*29)。現在までとられてきた二国間およびPIFを通しての選挙実施へ向けての援助は、フィジー政府に拒否され続けてきた。Lowy Instituteは、強固な多国連合(*30)を形成することにより、フィジー政府がオーストラリアからの援助を拒否する、そしてフィジーの内政への干渉としてオーストラリア政府を強く批判する危険性は軽減される(*31)であろうと考えている(*32)。ただし、憲法起草や選挙改革の提案は、ウエストミンスター型に限定されることなく、さまざまな形が取られる可能性を持つべきであるとの考えを示した(*33)。

そして、フィジー政府がいったん援助の提案を受け入れると、オーストラリア政府は次に、フィジーとの二国間関係の改善およびフィジーの太平洋島嶼地域との再統合へ向けて手助けをすることの必要性を示した(*34)。フィジーの指導者、役人、実業家、NGOなどの様々なレベルの人々が、オーストラリアだけでなく太平洋島嶼地域かつ世界とつながるように、また彼らが民主化への移行に向けて進むように考えられた3つの取り組みを後押しする(*35)。その取り組みとは以下のとおりである。

オーストラリア、メラネシアの4ヵ国およびインドネシアが、閣僚、民間のトップ級、研究者、メディア、NGOなどそれぞれ各レベルにおいて、リーダーシップについての話し合いを行う。この対話は、6ヵ国が参加することによって、フィジーに民主化を迫るためのものではないという状況を作り、そうした中でフィジーの閣僚などにリーダーシップおよび民主主義への理解を深めさせるという狙いがある。

フィジー政府は有能な公務員が不足している状況にあり、既にフィジーの公務員はオーストラリアにおいて様々なトレーニングを受け、リーダーシップコースなどにも参加している。これに加えて、フィジーの公務員をキャンベラにある各々の専門部署に短期間配置するなど、彼らのトレーニングに関する援助の枠組みを広げる(*36)。これは、フィジーの公務員の能力開発だけでなく、友好関係の構築にも役立つと考えられる。そして、こうした繋がりは、フィジーの民主化への移行を促す効果が期待でき、また将来の主要官僚との強固な関係性を築くための手段ともなりえる。

オーストラリア政府からの反対がなければ、フィジーの太平洋諸島経済緊密化協定の拡大交渉(PACER Plus)への参加が進められる。これは、フィジーの官僚がオーストラリアだけでなく太平洋島嶼地域とのつながりを再構築するための機会を与えるものである。

3、民主化へのフィジー国民の考え

Lowy Instituteが行ったアンケート調査(*37)は、オーストラリアの対フィジー政策や、オーストラリアをはじめとする国際社会からの民主化要求を拒否するバイニマラマ軍事政権に対して、フィジー国民がどのような評価を下しているかを示している。また、このアンケート結果は、彼らが民政復帰をどのように考えているのかも明らかにするものである。

フィジー国民の大半は、国際社会と良好な関係を維持することが重要であるという認識を持っている。彼らにとっては、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、イギリスとの関係が非常に重要であり、また経済力のあるアジア各国、つまり中国、日本、インドとの関係性も重要であると考えている(*38)。とりわけオーストラリアに対しては、76%の人々がその重要性を強く認識し、74%が好意的な印象を持っていると回答しているように(*39)、フィジーにとってオーストラリアが最重要国であると考えられている。また、バイニマラマがオーストラリアをPIFから除名しようとしているにも関わらず、80%の人々がオーストラリアはメンバーであるべきと考えている(*40)ように、彼らは、オーストラリアはフィジーにとってはもちろんのこと南太平洋地域にとっても重要であるとの認識を持っている。

しかし、オーストラリア主導による国際社会からのフィジー軍事政権への非難や、渡豪制限などの制裁によって選挙の実施を促すオーストラリア政府の対フィジー政策のスタンスは、フィジー政府からだけでなくフィジー国民からも強い反発を買っている。63%の人々がオーストラリアの対フィジー政策のスタンスに反感を抱いており、81%がオーストラリアの制裁措置の解除と正常なオーストラリア・フィジー関係の再構築を望んでいる(*41)。また、フィジーは2009年9月以来、コモンウェルスのメンバー資格が停止となっているが、これに対して76%の人々が反対の意を表明している(*42)。また、2009年5月以来、PIFのメンバー資格も停止となっているが、コモンウェルスの場合と同様に79%の人々がこうした措置に反対している(*43)。つまり、フィジー国民の多くは、フィジーの民政復帰はフィジーの問題であり、外圧に屈することなくフィジー国民によって決定されるべきであると考えている(*44)。そして、このことは、大半のフィジー人が、諸外国、特にオーストラリアによる内政干渉を強く非難するバイニマラマの考えを支持していることを示していると言えよう。

それでは、フィジー政府およびバイニマラマの国家運営は、フィジーの人々からどのように評価されているのだろうか。経済的側面においては、あまり良い評価がされていない。経済改革、雇用機会の増加に関してはそれぞれ59%、貧困の削減に関しては55%の人々が肯定的評価をしたにとどまっている(*45)。2010年のフィジーの経済成長率が0.1%、公債の対GDP比はこの3年間で約8%増、貧困率も3年間で13%増であり、近年のフィジー経済は悪化の一途をたどっている。このことを考えると、60%弱の国民の支持でさえ過大評価であると言えよう。これに対して、保健・医療政策に関しては69%、教育は82%、運輸関連は71%の人々が支持している(*46)ように、フィジー政府は社会インフラの整備をうまく実行していると考えられる。そして、2006年12月以降、オーストラリアを中心に国際社会から強く要求されている民主化に関しては、新憲法の起草準備がうまく進んでいると考えている人が53%、選挙の実施に向けてうまく進んでいると考えている人が52%、選挙制度の改正へ向けてうまく進んでいると考えている人が51%(*47)というように、政府の民主化の動きはそれほど進んでいないようである。

フィジー政府およびバイニマラマへの全体的な評価においては、65%の人々がフィジーは正しい方向に進んでいると考えている(*48)。また、66%の人々がバイニマラマ政権はうまく機能していると評価しており(*49)、政権を支持している。2008年12月の支持率が48%であったことを考えると、バイニマラマの国家運営を肯定的に評価する動きが強まっていると言えよう。

こうした結果を考えると、バイニマラマが民政復帰に向けてそれほど進んでいないということは、政府評価において大きな比重を持っていないようである。実際、西欧型の民主主義がフィジーにとってもっとも好ましい政治体制であると考えている人は53%にとどまっている(*50)。しかし、民主主義の基本要素である人権に関わるもの、特に表現の自由、投票権、公正な裁判を受ける権利、メディアの検閲からの自由などは、ほぼすべての人が重要であるとしている(*51)。つまり、選挙の実施や新憲法の起草が示すような、制度および統治システムとしての民主主義への回帰、民政復帰は、フィジー国民にとっての重要事項ではないと解釈できる。また、68%の人々が軍事政権を容認している(*52)ように、フィジー国民は民政復帰を特に望んでいるわけではない(*53)。フィジー国民は、統治システムに関係なくクーデターの起きない安定した社会の実現を望んでいるようである。

おわりに

制裁と言う圧力によって早期の選挙実施および民政復帰を要求するという現在のオーストラリアの対フィジー政策のスタンスはうまく進んでおらず、この失敗はオーストラリアの国益を大きく損なわせる可能性を持っている。また、こうした政策スタンスは、フィジー軍事政権からだけでなく国民からも強い反感を買っており、オーストラリアの内政干渉は正当性を持つものではないと言えよう。つまり、Lowy Instituteが提案するように、対フィジー政策のスタンスは転換の必要があるようである。

Lowy Instituteの示す新しい対フィジー政策のスタンスは、「対話を通して二国間関係を改善し、フィジーの民主化へ向けて憲法起草や選挙改革へ向けての援助を示す」というものである。このLowy Instituteの提案は、圧力による民主化要求の失敗によって失われつつある国益の保護を狙うオーストラリアからは十分な支持が得られると考えられる。また、制裁の解除を願うフィジー国民も一定の支持は示すであろう。しかし、この新しいスタンスもフィジー国民が望むものではないようである。Lowy Instituteが提案する新しいスタンスは、圧力による強制から対話による援助の提案というように手段の軟化を示すものの、「フィジーの民主化」という目標をそのまま維持している。さらに、同提案は、フィジーがオーストラリアの援助を内政干渉として強く批判する、または拒否する危険性を軽減するために、多国連合の形成を示しており、フィジーの民政復帰を強く推し進めようという考えがはっきりと見て取れる。これに対して、フィジー国民は民政復帰を熱望しているわけではなく、制度および統治システムに関係なくクーデターの起きない安定した社会の実現を望んでいるようである。つまり、フィジー国民が社会の安定を維持できる制度を必要としているのに対して、Lowy Instituteは民主化ありきの論で、フィジーの民主化をどのように進めるかを提案している。Lowy Instituteの提案が示す民主化への介入もまた正当性を持たない内政干渉であると解釈される。また、バイニマラマが約束通りに2013年までに新憲法の起草、2014年の選挙実施を通してフィジーの民政復帰を進めるとしても、フィジー国民は、フィジーの民政復帰はフィジーの問題であり、外圧に屈することなくフィジー国民によって決定されるべきであると考えている。

オーストラリア政府は対フィジー政策において、フィジーの民政復帰はフィジー国民によって決定されるべきである、制度および統治システムに関係なくクーデターの起きない安定した社会の実現を望むというフィジー国民の民意を反映する必要がある。オーストラリアの対フィジー政策は、早期の民政復帰を要求する、フィジーの民主化をどのように進めるかではなく、フィジー主導による社会安定を維持しうる制度の形成を認め、時間を掛けて形成を行うパシフィック・ウェイを理解する、そしてフィジー国内からの要請に応じて民主化プロセスを援助するというスタンスが必要ではないだろうか。しかし、オーストラリア政府は、南太平洋の大国としての威信にかけて、フィジーの民主化に失敗したで終わらせるわけにはいかない。国益の保護のため、フィジーの民政復帰を実行させる、またフィジーの民主化プロセスの中で重要な役割を演じる必要がある。それでは、オーストラリア政府は、フィジー国民の民意をどのように受け止め、対フィジー政策をどのように転換するのだろうか。現在の強硬路線を維持するのだろうか、Lowy Instituteの提案に従って対話を通しての民政復帰への援助を進めるのだろうか。フィジー主導の制度作りを支持するのだろうか。オーストラリアの対フィジー政策の方向性はもちろんのこと、フィジーが2014年の選挙実施へ向けてどのように進むのか、今後の動きに注目する必要がある。

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(*1 ) 2006年12月5日のクーデターによってバイニマラマが行政権を掌握したものの、軍医のセニランガカリを暫定首相に任命しており、バイニマラマ自身が暫定首相となるのは2007年1月5日のことであった。2009年4月9日、控訴裁判所が、2006年12月のバイニマラマによるガラセ首相の解任、2007年1月のイロイロ大統領によるバイニマラマの暫定首相任命を違憲と判断したことにより、バイニマラマを暫定首相とする軍事政権は一時的に中断することとなった。ただし、4月10日にはイロイロ大統領が憲法破棄を宣言し、翌11日にイロイロ大統領がバイニマラマ前暫定首相を首相に任命した。
(*2) Hayward-Jones Jenny, Policy Overboard: Australia’s Increasingly Costly Fiji Drift.
http://www.lowyinstitute.org/Publication.asp?pid=1571 (accessed on 27 November 2011).
(*3) Hayward-Jones Jenny, Fiji at Home and in the World: Public Opinion and Foreign Policy.
http://www.lowyinstitute.org/Publication.asp?pid=1690 (accessed on 27 November 2011).
(*4) クーデターの当事者及び支持者、フィジー国軍(RFMF)の幹部(准将及びそれ以上)とその家族、RFMFの軍人(家族は含まない)、フィジー暫定政権の閣僚とその家族、上級公務員、政府及び準政府機関の委員会の被任命者。
http://www.dfat.gov.au/un/unsc_sanctions/fiji.html (accessed on 15 December 2011).
(*5) ただし、オーストラリアはフィジーに対して経済制裁を取っていないため、オーストラリア企業はフィジーで操業を続けている。また、オーストラリア人のフィジーへの渡航制限は取られていないため、2010年には過去最多の約32万人のオーストラリア人がフィジーを訪れている(過去数年間は20万人前後で推移)。これらは、フィジー経済にとっての命綱となっている。
(*6) Policy Overboard, 3.
(*7) Ibid., 4.
(*8) 2009年に選挙を実施するという約束を、バイニマラマが実行に移さなかったため。
(*9) 2010年の選挙実施へ向けて話し合いを持つという約束を実行しなかったため。
(*10) Policy Overboard, 7.
(*11) ラッド政権以降、国連やNATOなどの大きな国際協議体において意見や利益を強く主張すること、そして安保理の非常任理事国の席を獲得することを目指すというオーストラリアの活発な外交戦略。
http://newmatilda.com/2008/04/02/mr-rudd-goes-washington (accessed on 15 December 2011).
(*12) Policy Overboard, 8.
(*13) Ibid., 5.
(*14) ニュージーランド、アメリカ、イギリス、EU、日本なども、クーデターを強く批判し、早期の民政復帰を要求している。
(*15) Policy Overboard, 5.
(*16) Ibid., 5.
(*17) Ibid., 5.
(*18) Ibid., 6.
(*19) Ibid., 6.
(*20) Ibid., 5.
(*21) Ibid., 7.
(*22) Ibid., 9.
(*23) Ibid., 9.
(*24) Ibid., 8.
(*25) Ibid., 9-10.
(*26) Ibid., 10.
(*27) Ibid., 10.
(*28) Ibid., 10.
(*29) Ibid., 11.
(*30) この連合は、ニュージーランド、アメリカ、EU、日本のような伝統的友好国と、インド、インドネシア、マレーシア、韓国、パプアニューギニアのような非伝統的友好国から形成されるべきである。
(*31) フィジー政府による提案の受け入れ拒否は、国際社会からの反バイニマラマの動きを強め、そして将来の民主化やフィジーの国際協調に対するバイニマラマの責任の欠如を示すことになるため。
(*32) Policy Overboard, 11.
(*33) Ibid., 11.
(*34) Ibid., 11.
(*35) Ibid., 11-3.
(*36) 既に民間セクター、特に銀行やホテルでは、フィジーの従業員がオーストラリアにある系列やグループで短期間のトレーニングを行っている。
(*37) 2011年8月19~21日に実施された。サンプル数は1032。
(*38) Fiji at Home and in the World, 4.
(*39) 他国に対する重要性を強く認識する割合は、ニュージーランド72%、アメリカ67%、イギリス66%、日本62%、中国60%インド58%となっている。また、好意的な印象を持つ割合は、ニュージーランド72%、アメリカ72%、イギリス68%、中国64%、日本63%、インド62%となっている。
(*40) Fiji at Home and in the World, 7.
(*41) Ibid., 6.
これに対して、オーストラリア国内では、56%の人々が制裁の維持を求め、16%はより強い制裁の発動を求めている。
(*42) Ibid.,6.
(*43) Ibid., 7.
(*44) 83%もの人々が、フィジーの民政復帰はフィジーの問題であり、フィジー人によって決定されるべきであると主張している。
(*45) Fiji at Home and in the World, 11.
(*46) Ibid., 9.
(*47) Ibid., 11.
(*48) Ibid., 9.
(*49) Ibid., 9.
(*50) Ibid., 10.
(*51) Ibid., 13.
表現の自由は98%、投票権98%、公正な裁判を受ける権利98%、メディアの検閲からの自由96%の人々が重要であると考えている。
(*52) Fiji at Home and in the World, 12.
(*53) ただし、軍が将来的にも政治に大きな役割を持つことを支持する人々は53%にとどまっており、軍事政権の永続化は容認されているとは言い難い。

 

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