新刊書紹介『オセアニアと公共圏』
-フィールドワークからみた重層性-
須藤健一/柄木田 康之 編著
本書は、主として文化人類学者らで構成される共同研究会の成果を纏めた論文集だ。全体は序章プラス13章からなるが、一つひとつの章は独立論文となっている。ただし、各論文は島嶼国が近代国家形成の中で出現させている市民社会に焦点をあて、伝統社会から市民社会へと変容しつつある各国の有り様を「公共圏」という追究視点で貫くことに成功した。そのため、一冊の本としての流れができている。
これまで、小さな村や島嶼などをフィールドワークの対象として、小規模社会で見た事象を人間の普遍性の中で解釈しようとする努力を重ねてきた文化人類学者が少なくない。だがこれは、ややもすると今ある現実社会を理解するのになんら役立たない行為で終わる危険性をも孕んでいた。こうした文化人類学が陥りやすい弱点を意識し、これを乗り越えるテーマで地域社会の理解を深めようと試みたのがこの研究会だった。各論考が、文化人類学的な手法による調査に基づきながらも、島嶼国家全体の動向を分析する政治社会学的な著述になっているのはそのためだろう。
オセアニア島嶼に、いま何が起きているのかを知るための好著といって良い。
目次と著者の紹介
はじめに オセアニア島嶼国の動き 須藤 健一
序 章 規範的公共性を越えて 柄木田 康之
第1章 ヤップ州離島の公共圏の重層性 柄木田 康之
第2章 国家からの離脱と「市民社会」 関根 久雄
第3章 民族化する国家体制と離脱する人びと 丹羽 典生
第4章 植民地期サモアにおける公共衛生と公共圏 倉田 誠
第5章 サモア社会に公共空間は存在するか? 山本 真鳥
第6章 譲渡できないものを贈与する 福井 栄二郎
第7章 パプアニューギニア都市における「公共空間」の可能性 熊谷 圭治
第8章 ディアスポラ的公共圏の生成 風間 計博
第9章 移民にとっての公共はどのようにトランスナショナルなのか? 市川 哲
第10章 脱植民地期ミクロネシアにおける公共圏・公共的空間の問題系 遠藤 央
第11章 オセアニアにおける公共圏、親密圏の出現 吉岡 政徳
第12章 グローバル化する「公共宗教」の行方 石森 大知
第13章 太平洋諸島フォーラムと市民社会 小柏 葉子
(A5版上製273頁 昭和堂/2012年12月25日発行 定価:4000円+消費税)