フィジー2013年憲法の成立と特徴
-政府草案からの修正点を中心に-
近大姫路大学教授 東 裕
はじめに
本稿では、確定した2013年憲法と政府草案との変更点について紹介し、そのうちの重要な特徴を分析する。
1.フィジー2013憲法・条文目次
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フィジー憲法
前文
第1章-国家
1.フィジー共和国
2.憲法の最高法規性
3.憲法解釈の諸原則
4.世俗国家
5.市民権
第2章-権利章典
6.適用
7.本章の解釈
8.生命に対する権利
9.個人の自由に対する権利
10.奴隷的拘束、苦役、強制労働、及び人身売買からの自由
11.逮捕者及び在監者の権利
12.残虐かつ品位なき取扱からの自由
13.不当な捜索及び押収からの自由
14.刑事被告人の権利
15.裁判所又は審判所へのアクセス
16.行政上及び管理上の正義
17.言論、表現、及び出版の自由
18.集会の自由
19.結社の自由
20.雇用関係
21.移転及び居住の自由
22.宗教、良心、及び信条の自由
23.政治的権利
24.プライバシーの権利
25.情報へのアクセス
26.平等への権利及び差別的取り扱いからの自由
27.強制的又は恣意的な財産収用からの自由
28.フィジー原住民、ロツマ人及びバナバ人の土地の保護
29.土地の権利及び利益の保護
30.鉱物の採掘に対する公正な採掘権の分配に関する土地保有者の権利
31.教育に対する権利
32 .経済的参加に対する権利
33.労働及び公正な最低賃金に対する権利
34.交通への合理的なアクセスの権利
35.住居及び公衆衛生に対する権利
36.十分な食料及び水に対する権利
37.社会保障スキームに対する権利
38.健康に対する権利
39.恣意的立ち退きからの自由
40.環境権
41.子どもの権利
42.障害者の権利
43.緊急事態における権利の制限
44.権利救済
45.人権及び反差別委員会
第3章-国会
第A部-立法権
46.立法権と国会の権能
47.立法権の行使
48.大統領の同意
49.法律の効力発生
50.規制及び法律の効力を有する法
51.国際条約と慣習に対する国会の権能
第B部-構成
52.議員
53.比例代表制
54.国会の構成
55.投票資格及び登録
56.国会選挙への立候補者
57.公職にある者の立候補者
58.国会の任期
59.選挙公告
60.立候補受付日
61.投票日
62.任期満了前の解散
63.議席の欠員
64.次点繰り上げ者
65.議員資格争訟
66.資格争訟の管轄裁判所
67.国会の会期
68.定足数
69.投票
70.委員会
71.議事規則
72.請願、公的アクセス、及び参加
73.議員の権限、特権、免責及び紀律
74.証人喚問権
第C部-諸制度及び公職
75.選挙委員会
76.選挙監視人
77.国会の議長及び副議長
78.野党指導者
79.国会事務総長
80.報酬
第4章-行政部
第A部-大統領
81.フィジー大統領
82.助言に基づく大統領の行為
83.就任資格
84.大統領の任命
85.任期及び報酬
86.就任宣誓
87.辞職
88.大統領不在時に首席裁判官が代行する
89.解職
第B部-内閣
90.政府の責任
91.内閣
92.首相職
93.首相の任命
94.不信任動議
95.閣僚の任命
96.法務総裁
第5章-司法部
第A部-裁判所及び裁判官
97.司法権及び司法権の独立
98.最高裁判所
99.控訴裁判所
100.高等裁判所
101.下級裁判所
102.その他の裁判所
103.裁判所規則及び手続
104.司法業務委員会
105.裁判官任用資格
106.裁判官の任命
107.その他の任命
108.司法部職員
109.就任宣誓
110.任期
111.首席裁判官及び控訴裁判所長官の解任事由
112.司法部職員の解職事由
113.司法部職員の報酬
第B部-独立司法及び法業務機関
114.独立法務業務委員会
115.フィジー反腐敗独立委員会
116.法務次官
117.検事総長
118.法支援委員会
119.恩赦委員会
120.公職紀律審判所
121.説明責任及び透明性委員会
122.現職の地位
第6章-国家業務
第A部-公共業務
123.諸価値及び諸原則
124.公職者は市民でなければならない
125.公共業務委員会
126.公共業務員会の権限
127.事務次官
128.大使の任命
第B部-訓練された部隊
129.フィジー警察隊
130.フィジー矯正隊
131.フィジー共和国軍
第C部-憲法公職委員会
132.憲法公職委員会
133.憲法公職委員会の権能
第D部-公職に関する一般規定
134.適用
135.公職の任期と条件
136.報酬及び手当
137.解職事由
138.委員会及び審判所の権限行使
第7章-歳入及び歳出
139.歳入の調達
140.整理基金
141.法で認められた支出金
142.支出金に先立つ支出の認可
143.支出金と課税方法については大臣の承認を必要とする
144.年間予算
145.政府による保証
146.使途の説明を要する公金
147.一定の給与と手当の支払いのための整理基金の常設支出金
148.その他の目的のための整理基金の常設支出金
第8章-説明責任及び透明性
第A部-行為規範
149.行為規範
第B部-情報の自由
150.情報の自由
第C部-会計検査官
151.会計検査官
152.会計検査官の権限
第D部-フィジー準備銀行
153.フィジー準備銀行
第9章-緊急権
154.緊急事態
第10章-免責
155.1990年憲法の下で認められた免責は継続する
156.2010年の政治的事件に対する責任の制限の下で認められた免責は継続する
157.更なる免責
158.免責は確定した
第11章-憲法の改正
159.憲法の改正
160.改正手続き
161.2013年12月31日以前の改正
第12章-施行、解釈、廃止及び経過
第A部-略称及び施行
162.略称及び施行
第B部-解釈
163.解釈
第C部-廃止
164.廃止
第D部-経過
165.大統領職
166.首相及び閣僚
167.公的又は憲法公職者
168.財政
169.国会及び議長の権限
170.選挙
171.諸制度の継承
172.権利と義務の維持
173.諸法の維持
174.司法手続
スケジュール
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2.政府草案の修正点
そこで、まず、条文見出しが変更された条項の見出し上の変更点だけを紹介し、次の「3.政府草案の修正点の特徴」で、新たに付加された条項を含めて、条文の内容に重大な変更があった条項について解説したい。
政府草案にはなかった、2013年12月31日以前の改正(161条)の1条が付加された。この条項は、改正規定の例外を定めた経過規定で、2013年12月31日以前に、大統領は内閣の助言に基づき、この憲法の条項が完全な効力を持つために必要な憲法修正またはこの憲法の条項の中にある矛盾若しくは誤りを訂正するために必要な憲法修正を、官報に登載される政令(Decree)によって行うことを認めたものである。
5)「施行、解釈、廃止及び経過」(第12章) 第D部「公職者」(政府草案163条)が「公的又は憲法公職者」(167条)に修正された。
「定年」(政府草案125条)、「契約任用」(政府草案126条)、「公共業務紀律審判所」(政府草案127条)。これらの諸規定は、2013年憲法では、国家業務(第6章)で新設された 第D部「公職に関する一般規定」の諸条項(134条~138条)でより詳細に規定された。
3.政府草案の修正点の特徴
政府草案と成立した2013年憲法を比較すると、上記のような変更点がみられるが、内容的にみて重要な変更点は、(1)原住民の権利・利益保護規定の導入、(2)選挙制度の変更、(3)首相と大統領の権限の変更、(4)改正禁止規定の導入、である。
③「鉱物の採掘に対する公正な採掘権の分配に関する土地保有者の権利」(30条)では、「地下又は水面下のすべての鉱物は国によって所有されるが、いずれの土地の所有者(慣習的保有地又は自由保有地を問わず)又はいずれの登録された慣習的漁業権の保有者も、土地または漁業権を設定された海底からの鉱物採掘権の国による許可に対した国に支払われる鉱区使用料又はその他の金銭の公平な配分権が保障される」(30条1項)と定める。
選挙への立候補は、政党所属候補だけでなく無所属候補も認められている(56条(1)項)。政党所属候補の場合、政党得票数が全投票数の5%以上を獲得しないと政党に議席が配分されず、無所属候補者でも全投票数の5%以上の得票がないと当選できない(53条(3)項)。
また、政府草案では、「毎年、首相は、翌年の政府の政策と計画の大綱について演説するため国会に出席しなければならない」(政府草案91条(3)項)としていた条文が削除され、2013年憲法では「毎年、大統領は、政府の政策と計画の大綱について演説するため、国会に出席しなければならない」(81条(4)項)と規定された。
こうして、過去のクーデタに関与した者の免責を認める政令の有効性を確認する条文を置いた憲法第10章と第12章第D部の諸規定の改正を禁止した。
4.結びに代えて
筆者らが2011年3月にフィジー政府庁舎でバイニマラマ首相にインタビューした際、同首相は情熱的にこの点を強調していたことが印象深く記憶に残っている。同首相によれば、伝統的経済社会構造の改革には一定の準備期間が必要で、それを示したのが2009年のロードマップであり、2013年の新憲法制定、2014年の総選挙実施・民主政復帰という行程であった。このバイニマラマ政権の公約実現がほぼ確実となった今、わが国を含む関係先進諸国は、2007年以来の対フィジー政策の検証と今後のフィジー政治状況の推移を展望した新たな対フィジー政策の立案が求められよう。
・Constitution of The Republic of Fiji(本稿でいう「2013年憲法」。)
・Draft Constitution Of Fiji.(本稿でいう「政府草案」)
・東 裕「フィジー憲法政府草案の概要と特徴-1997年憲法・ガイ草案との比較において-」『パシフィック ウェイ』通巻142号、一般社団法人太平洋協会、pp.8-21、2013年8月。(*政府草案から変更がなかった2013年憲法の特徴については、すでに本稿で紹介されている。)