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145-<パラオ短信>観光異変、中国からの観光客激増 -観光スタイルに変化も-

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<パラオ短信>

観光異変、中国からの観光客激増

-観光スタイルに変化も-

上原伸一(うえはら しんいち)


 2011年から増え始めた中国からの観光客が、2014年に爆発的に増加し、1995年以降、パラオ観光客の1,2位を占めていた日本と台湾を一気に追い抜いて、1位になった。この結果、年間の総観光客数は前年34%増で、過去最高の140,784人を記録した。観客増は収入増に繋がるが、異常といえる中国からの観光客激増は問題も引き起こしている。今回は、この問題を中心に報告する。

<Ⅰ> 2014年の観光状況
 前号で報告したように、中国からの観光客は、2010年までは年間1000人未満であった。2011年に1,699人、2012年4,471人、2013年8,804人と急激に増えてきた、さらに、昨2014年は爆発的に増加して、39,383人を記録し、観光客1位に躍り出た。今まで日本と1位を競っていた台湾は、年による増減が激しいが、それとは比較にならない激増ぶりである(別表1参照)。しかも、年の後半から急激に増えており、12月には日本人観光客の2倍近くが来島し、この月で日本を抜き、年間1位となった(別紙2参照)。この勢いは今年に入っても衰えておらず、今年1月も7,896人が来島し、2位の日本の3,188人の2倍以上となっている。
 昨年は、日本からの観光客も前年より6.7%増加し37,986人であった。3位の台湾も18.2%増加し30,080人で、主な国で減少したのは韓国だけであった。その結果、2014年は全体で14万784人の観光客数となり、今まで最高であった2012年の11万8754人を大きく超えてこれまでの最高記録となった。これにより、パラオの収入も増加している。
 中国からの観光客が激増した理由はよく分からない。ただ、中国の経済成長に伴い、ここ数年、中国人の海外旅行が急速に増えていることが背景にあるのは間違いない。中国人の海外旅行者数は、2010年が5,739万人、2011年7,025万人、2012年1,318万人、2013年9,819万人、2014年1億900万人と急上昇している*1。国際世界観光機関(UNWTO)の発表では、近年の世界の観光客の増加の3分の1は中国人観光客によるとのことである。とりわけ、最近は南のリゾート地の人気が高い傾向にある*2。2014年9月にモルディブを訪問した習近平国家主席は、「中国人が多く海外のリゾート地でこのように楽しんでいるのは大変良いことである。ただし、エチケットを守る必要がある。飲み終わったペットボトルを投げ捨てたり、他の国のサンゴ礁を荒らしたりしてはいけない。」と語ったと伝えられている。
 この問題は、パラオでも例外ではなく、中国人観光客の増加に伴う収入増にもかかわらず、中国人観光客増加を一定程度に抑えるべきであるとの意見が観光局や観光業者から出ている。高付加価値観光による美しい自然とのバランスをとった観光を目指すパラオにとって、必ずしもプラス面だけではないとの指摘がされている。中国からの観光客は、台湾からの観光客と共にその殆どが団体のツアー客である。団体客の急増により、リピーターやパラオが標榜する「ハイエンド」な観光を求める個人客がホテルがとれないという状況も起こっている。こうした事態に対応するため、レメンゲソウ大統領も、中国人観光客受け入れのための中国資本によるホテル等の増設認可を厳しくしたり、団体ツアーのためのホテルの囲い込みを認めないようにするなどの呼びかけを行い、香港及びマカオからのチャーター便の減便も政府として検討するとしている。
 昨年12月には、サンゴの上に膝をついていたダイビンググループに対し注意をした他のグループのインストラクターが、マスクとレギュレーターを剥ぎ取られるという事件も起こっている。そのような行為を行ったのが中国人であるかどうかは不明であるが、今までパラオにおいて海中でこのような乱暴な事件は起きたことがなかった。自然保護の観点からも、パラオの観光資源として重要なダイビングの安全の観点からも大きな問題である。押し寄せる多量の団体観光客がこの事件のベースになっている可能性がある。
 中国と台湾からの観光客を合わせると、約7万人となり、観光客全体の半数を占める。昨年のんびりと南の美しい海を楽しみに行った日本人が、中国人(中国語を使うアジア人)の団体ばかりで騒がしく落ち着かなかったと語っていた。「ハイエンド」かつ持続的な観光の維持を目指しているパラオ観光業界及びレメンゲソウ政権は一つの大きな曲がり角に来ている。

<2>マリン・サンクチュアリィ法案
 レメンゲソウ大統領が、2013年3期目の大統領就任と共に打ち出したマリン・サンクチュアリィ計画は、太平洋諸国のかなりの賛同を得て影響を広げつつある。パラオ国内では、2013年にホッコンズ・バウレス上院議員が法案を提出していたが、レメンゲソウ大統領はその法案を修正してさらに強化した上で計画を推進する方針を明確にした。当該法案は、現在国会で審議中であるが、アイライ州議会や酋長協議会などが賛成を表明している。なお、レメンゲソウ大統領は、マリン・サンクチュアリ計画が評価され、2014年の国連環境計画(UNEP)Champion of earth for Policy Leadership を受賞した。

<3>上院における勢力の逆転
2012年の選挙で選ばれた上院では、 13名の議員のうち8名が大統領寄りの多数派を形成していた。その後、バウレス上院議員が暴力行為等の問題で、副議長の地位を追われて、多数派を離れ独立的な立場になっていた。 2014年10月12日にカミセック・チン上院議長が、多数派が支配していた上院財務委員会に、委員長のスランゲル・ウィップスJr.に事前の連絡なく、議長権限で5人の少数派を押し込んだ。11月4日に、副議長を大統領派のフィリップ・レクライ氏から、反大統領派のキャシー・ケソレイ氏に変更する議案が提出され、可決された。バウレス氏と共にチン議長が反大統領派に加わったことが明らかになった。これにより、反大統領派が7名、大統領派が6名となり、勢力が逆転した。
 チン氏のこの動きは、 2016年の大統領選挙絡みものである。2012年の選挙では、チン氏を大統領に推す声が強かったが、チン氏とレメンゲソウ氏は親戚であり、両者の話し合いにより、チン氏が大統領立候補を取り下げた事情がある。レメンゲソウ大統領は、現在のところ無難に大統領職をこなしており、マリン・ サンクチュアリィ計画も国内を超えて広く各国の賛同や賞賛を得ている。チン氏としては、2016年の大統領選挙を睨んで、この時期に反大統領の姿勢を明確にしたものと考えられる。 2012年にレメンゲソウ氏に敗れた前大統領のジャンセン・トリビヨン氏は今年1月に大統領立候補を否定しており、現段階ではレメンゲソウ現大統領の他に、チン上院議長、ベルス副大統領が大統領選に立候補するものとみられている。

<4>パラオ独立20周年-56ヵ国と国交樹立
 2014年10月1日は、アメリカの信託統治が終了し、アメリカとの自由連合協定の下、独立を達成してから20周年の記念日であった。各国からの来賓も参加して、首都マルキヨクで盛大に式典が行われた。
 この段階で、パラオと正式に国交を樹立している国・地域は、地元紙『ティアベラウ』によると、以下の56ヵ国・地域である:アメリカ、ミクロネシア連邦、パプアニューギニア、オーストラリア、北マリアナ自治区、ナウル、日本、ニュージーランド、韓国、インド、キリバス、スペイン、スウェーデン、ポルトガル、イギリス、オランダ、タイ、フィリピン、カナダ、ドイツ、フランス、マーシャル諸島共和国、バチカン市国、シンガポール、チリ、台湾、 EU、アイルランド、スイス、メキシコ、イタリー、東チモール、チェコ、ギリシア、アルゼンチン、アイスランド、オーストリア、ブラジル、カタール、南ア、トルコ、ロシア、インドネシア、スロバキア、ベトナム、コソボ、フィンランド、モロッコ、ソロモン諸島、マレーシア、アラブ首長国連邦、カンボジア、ベルギー 、エジプト、スロベニア、キルギス。

<その他>

①外国人居住者:2014年9月9日現在の外国人居住者は51カ国からの7,114人。2013年6月18日時点の6,302人から増加している。国別では、フィリピンが圧倒的に多く4,347人。次はバングラデシュの713人で、中国は429人で3位。日本は327人で4位である。以下、インドネシア289人、タイ258人、アメリカ210人、ミクロネシア連邦135人、韓国119人。これ以外の国は、 100人未満である。

②カヤンゲルに日本の援助で小学校:2012年12月3日の台風ボーハによって壊滅状態になっていたカヤンゲルでは、着々と復興が進んでいる。島で唯一の小学校も破壊されてしまったが、日本の援助により再建され、 2014年8月22日にオープニングセレモニーが行われた。コロールの学校等に通っていた小学生も戻ってきた。カヤンゲルは、パラオの中でも特段に美しい自然に恵まれた島である。カヤンゲル出身者の多くがコロールで働いているが、子供は島で暮らす父母に預け、島の自然と伝統の中で育てている家庭は少なくない。小学校の復活は島にとって大きな意味がある。なお、新しい小学校は、パラオ日本友好小学校と名付けられた。

③選挙に写真付きIDが必要に:パラオ選挙管理委員会は、選挙の投票の際、今後写真付き身分証明書が必要と2014年7月に決定した。パラオは、パラオ人であれば国内のどこを旅しても必ず親戚がいるので、宿や食べ物には困らないと言われてきた。選挙においても、投票所の管理委員が複数いるので、本人確認が出来、今まで特段の身分証明書は必要ではなかった。今回の決定は、パラオの現代化の象徴的な出来事である。
④2015年予算年度内成立:2014年8月28日に2015年度(2014年10月-2015年9月)予算が7588万6600ドルで成立した。今までは、大統領と議会の関係が必ずしも良好でなかったため、予算が年度内に成立しないこともよくあった。第3期のレメンゲソウ政権になってからは2年連続の年度内成立となった。

⑤観光キャッチフレーズ変更:パラオ観光局は、今までパラオの観光キャッチフレーズとして、”Rainbow’s End”を使用してきたが、今後は”Pristine Paradise”を使用するとにした。マリーン・サンクチュアリィ計画など、自然保護に重点を置いた政策を展開し、自然を中心にした高付加価値ツーリズムを目指すレメンゲソウ政権の意向を反映したもの。

パラオ・別表1・2


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