2002年パプアニューギニア議会選挙の分析
―非民主的選挙の原因と結果に対する考察を中心に―
はじめに
しかしながら、こうして現在なお論争を呼んでいる2002年のパプアニューギニア選挙に関して、わが国では残念ながらほとんど関心の目がむけられていない。事実、各紙新聞紙上でも、8月にソマレ政権の誕生の事実のみの記事を掲載する程度であり、過去最悪といわれる非民主的選挙の実態、およびその後の動向に関しては全く言及されていないのである。そこで本稿では、海外の各メディアによる報道を参考に、過去最悪となった選挙経過の実態の一例を紹介し、その原因およびその後の動向を通してパプアニューギニア選挙の抱える課題について分析をおこなうものである。
1. 選挙結果の概要
こうした選挙方式の下、2002年6月15日に総選挙のための投票が開始された。今回の選挙では、投票および開票をめぐって暴力、不正、脅迫など様々な混乱が生じ、選挙結果の確定が大幅に遅れた。しかしながら、8月5日の議会召集を目前に控えた8月2日、選挙管理委員会(Electoral Commission)によって選挙の最終結果が確定された。最終的に確定されたこの選挙結果による各選挙区からの当選者とその所属政党は表1の通りである。
今回の選挙結果を政党の観点から見れば、前政権を担ったモラウタ(Morauta)前首相率いる人民民主運動(PDM)は、前回の1998年の選挙で獲得した38議席対し、このたび12議席と惨敗した。他方、第一党となったのはPNG独立当時の1975年から1980年および1982~1985年に首相在職経験のあるソマレ氏率いる国民同盟党(NAP)である。しかし、第一党とはいうものの、その議席数は19議席にとどまった。これは全体のわずか18パーセントを占めるに過ぎない。NAPとPDMに次いで人民向上党(PPP)が9議席、人民行動党(PAP)と人民労働党(PLP)がともに5議席で、メラネシア同盟党(MAP)、パプアニューギニア連合党(PNU)、統一党(UP)、キリスト教民主党(CDP)、人民第一党(PFP)およびパプアニューギニア国民党(PNP)がそれぞれ3議席と続き、その他2議席以下の政党が11も存在している。
図1 政党別議席割合
こうして一応、政権の体裁を整えたソマレ政権が誕生するに至った。しかしながら、不正と暴力の結果、サザン・ハイランド州では、きわめて非民主的な選挙となった6議席が、選挙管理委員会によって無効とされた。現政権は同6議席を空席にしたまま発足されたのである。
2. 選挙における非民主性の実態
さらに、数多くの未開票の投票箱が運送中や保管中に攻撃されて消失し、多くの死票を生ぜしめた。たとえばエンガ州のワペナマンダ(Wapenamanda)では7月2日投票所の近くで起こった口論で制止しようとした一人の男性が鉈で腕を切られ、口論をしていた者たちによって2つの投票箱が破壊された。ミナンブ(Minamb)でもエンガ州選挙区の投票箱が盗まれた後破壊されたとされる15)。さらに7月12日にはワバックに投票箱を輸送していた護送車が武装集団に襲撃され、警察との銃撃戦の中で、護送車に火炎瓶が投げつけられた16)。同じく7月中旬、高性能のライフル銃を携帯したおよそ50名からなる武力集団が、ワバック(Wabag)の警察署に突入し、出勤していた4人の警官を車の中に監禁、保管されていた投票箱をヘリコプターの燃料を使って焼失させた17)。同地域を担当する選挙管理委員会のボキ・ラガ(Boki Raga)氏によれば、この事件で少なくとも3万票が死票と化したとされる18)。投票箱に対する一連の略奪、破壊行為でおよそ250の投票箱が消失し、その結果数10万人もの住民が選挙を通して意思を表明する機会を奪われたことになるのである。
3. 非民主的選挙の原因の所在
しかし、上述のように政府の運営資金削減と支払いの遅滞に非民主的選挙結果の原因を見出す一方で、他方では選挙管理委員会もその準備段階での責任を免れないように思われる。すなわち、モラウタ政権が非難したように、選挙管理委員会は、資金面での問題はあったにせよ、十分な時間があったにもかかわらず有権者名簿を適切な内容に改訂せず、古いデータ-に基づく不正確なものを今回の選挙で用いたことには疑いない。すなわち、今回の名簿には数多くのすでに死亡している者や、資格を有しない年少者までもが登録されていた。他方では、今回投票年齢に達した若者たちを中心に、かなりの数の真の有権者が投票名簿の記載から漏れていたため、投票を行えなかったことは先述の通りである。こうした不正確な名簿に基づく選挙の実施が、有権者たちの不満を増大させ、不正や暴力の行使を引き起こした最大の原因と捉えることが可能であろう。
おわりに
今後の課題としては、過去最悪と呼ばれる今回の選挙の反省とその後の国家の存続にかかわるような重大な影響を踏まえて、次回の選挙では、政府と選挙管理委員会の緊密な関係の構築と充分な事前準備が望まれることはいうまでもない。また、長期的な視野では政治家、警察、国防軍、国民一般の民主的意識の浸透が望まれる。しかし、自由で民主的な選挙の実現のために、より短期的な視野で対処しなくてはならない最大の課題としては、選挙実施期間ばかりでなく普段のPNG社会から暴力の行使を除去することであろう。そのためには徹底した銃の所持規制と密輸ルートの撲滅が今日PNG政府の取り組むべき最大の課題であると思われる。かって内戦と化したブーゲンヴィルでは、ニュージーランドやオーストラリアを中心にした国際的な協力体制のもとで、武装解除が一定の成果をあげている。そこで、同様に武器の回収が、とりわけハイランド諸州を中心にPNG全体で行われることが、今回の選挙で失われたPNGの民主性の回復の第一歩となると結論づけたい。